見事優勝したあたしたちは、マムさんのお店を目指す。
まさかサムさんの大型機械との決勝戦を終えた後で、それよりも更に大きい家と戦うことになるなんて夢にも思わなかった。
お客さんは盛り上がっていたけど、本当にめちゃくちゃだったと思う。
空を飛んでミサイルのように椅子が発射され、なぜか爆発するぬいぐるみも一緒に飛ばし、ジェット噴射や腕を生やして這い寄る家なんて聞いたことがない。
欠陥住宅にも程があるし、そもそも、あんなものは家ではなく兵器だ。

ボーナスマッチの前、怒ったマムさんの暴言にも驚いたけど、気持ちはわからなくもない。
それでも、美人さんの口から出てくる言葉のパンチ力は凄まじかった。

さすがにヘトヘトだけど、これでやっとティファを助けに行ける。
オーディションに間に合いそうで良かったし、不謹慎だけど、どんなドレスか楽しみでもあった。
こういう機会でもなければ、ドレスなんて着ることもない。
ドレスを着て乗り込むなんてスパイ映画みたいだなとそんなことを思ってしまうのは、まだ闘技場での高揚感が抜けていないのかもしれない。

「戻ったね。やるじゃないか、アンタたち。なまえもあんなに戦えるなんて知らなかったよ」
「えへへ。ちょっと頑張りました」
「あれでちょっとねぇ…全く、よくわからない子だよ」

そう言って呆れたように笑われてしまう。
マムさんは、クラウドにあたしたちの準備をしている間、サムさんのところへ行って"ウォールマーケットの遊び方"を学べと揶揄うと、あたしとエアリスを奥の部屋へ行くように促した。
遊び方と言っても、結局なんでも屋の仕事をするようにサムさんに手配してあるだけーーーそう、少し心配したあたしに説明してくれた。

「せっかくの機会さ。そのふぬけた男っぷりも、ついでに叩き直してきな」
「じゃあ、あたしは準備して待ってるね。クラウドがビックリするくらい、変身してくるから」

相変わらず不貞腐れた顔はしていたけど、あたしの言葉に頷くと渋々お店を後にする。
そんなクラウドを見送り、マムさんに促された部屋に入り、まずはシャワーを浴びる。
闘技場でのバトルで汚れた身体を洗い流しながら、先ほどまでの気持ちを落ち着けるように一緒に流してしまう。

「心配しなさんな。クラウドが女遊びを覚えるような男に見えるかい?あれは、惚れた女を裏切るような男じゃないよ」

あたしの心を見透かすようなマムさんの言葉。
惚れた女…確かにクラウドは、ティファを裏切るようなことはしないはず。
そんなドス黒いため息は汚れと共に洗い流してしまおうと蛇口を捻り、水圧を少しだけ強めた。

それと同時に、もうこんなことを考えるのは止めにしようと言い聞かせる。
クラウドが誰を好きだとしても、あたしが好きな気持ちは変わらない。
好きな人には幸せでいて欲しくて、それが自分の隣でないとしても、あたしがクラウドと一緒にいられる時間は幸せで、それは紛れもない事実なんだから。



ーーーーーーーーーー



強引に話を進められ、俺はサムのところへやってきた。
ウォールマーケットで遊ぶつもりなんてないが、なまえたちの準備を待つ間、何もすることはない俺は、結局サムに渡された依頼リストをこなすしかなかった。
正直なところ、待ってる間落ち着かない気持ちを誤魔化すにはちょうどいい。

依頼を終えてマムの店に戻れば、ジョニーが慌てた様子でティファのオーディションが始まると知らせに来た。
ジョニーには、なまえたちの準備が終わってもマムの店にいるように伝え、屋敷の扉を開けた。

出来ることなら、なまえたちを危険な目に合わせたくない。
楽しんでるエアリスもだが、なまえだってここがどんな場所かわかってない。
ティファばかり心配しているが、自分だって危なっかしいところを自覚して欲しい。
闘技場でも、決勝戦を勝ち抜きボーナスマッチを勝利したあとで、観客たちがなんて言ってたか気付いていない。
昔から変わらない危機感のなさは相変わらずで、再会した今のほうが厄介だ。

コルネオの屋敷の扉を開き進めば、そこには最初に訪れたときと変わらず門番の男が3人立っていた。
俺の姿を確認すると、真ん中にいたキャップの男は大きくため息をついて睨みつける。

「またお前か」
「推薦状は手に入れた」
「あれは女限定だ」
「…エアリスとなまえが選ばれた」
「あぁ…一緒にいた女たちか。気の毒に。でもな、どっちにしても男は入れない」
「許可は求めていない」

そう言いつつ、背中のバスターソード柄を掴む。
強行突破も辞さない俺に、門番の男は忠告した。
この街でのコルネオと言う男の存在と権力、最後にオーディションまで時間があるから推薦状があるならなまえたちを連れてこいと、そう追い返された。

ティファに危害が加われば本末転倒な上に、関係ない人間が巻きこれたとなればなまえは傷付く。
そんな姿は見たくないが、かと言ってなまえたちをそんな所に送り出すことはしたくない。
他に策なんて思いつかず、マムの店に戻るしかない俺は、足取り重く戻る道で何やら騒がしいことに気付く。

人々の歓声、上がる花火、ジョニーが誰かを庇うように道を開けるよう告げてから赤絨毯を広げてエスコートする。
1人は赤いドレスを身に纏い、もう1人はエメラルドグリーンのドレスを身に纏っている。
その姿に目を奪われていると、赤いドレスの女性ーーーエアリスと目が合い、そのあとで、後ろにいたエメラルドグリーンのドレスの女性、なまえと目が合う。

いつもと違う妖艶な姿に目を奪われた。
息が詰まり、言葉を失う俺にエアリスはなまえの手を引いて近付くと、そっと笑う。

「コルネオはこういうのが好きなんだって。あちこち盛られて、不愉快」
「そ、そうか」
「クラウド、なまえに感想ないの?」

そう言って、なまえの手を引いて前に立たせる。
下を向いていたなまえは顔を上げると、至近距離で目が合った。

あちこち着飾られ不機嫌そうにしていたエアリス同様、なまえもマムに着飾られていた。
正直、こういう時になんて声をかけてやるのが正解かわからない。
ただ、なまえを見ているとどうしていいかわからないくらいには動揺していた。
らしくないーーーそう息を整えると、先ほど門番の男に言われたことを思い出す。

「ここは思っていたよりも危険なところらしい。オーディションで何をさせられるのかわからない。やはり、2人で行かせるワケには…」
「2人?そんなつもり、ないよ。ほら、こっちこっち」

走り出すエアリスは振り返ると「ほら、早く」と、少し楽しそうだった。
残ったなまえは微笑むと、先に走り出したエアリスを追いかけるよう俺の手を引いた。
いつもならなんとも思わないそれに、柄にもなく再び動揺すると、楽しそうななまえに手を引かれてエアリスを追いかける。

触れられたところから、体温が上がっていくようだった。
ヒラヒラと揺れるドレスの裾や、髪の束を片方に流し彩る黄色と白の花は、なまえの綺麗でふんわりとした髪を彩っていた。

そんな後ろ姿をぼんやりと眺めながら、なまえに握られていた手に指を絡め、この姿を誰にも見せたくないなんてーーーそんなことを強く思った。



戦いの後で

prev | next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -