ティファを追い掛けたクラウドと合流し、3人でウォールマーケットを目指す。
クラウドはティファに七番街スラムに戻るよう言われたみたいだけど、あたしやエアリスの話を聞き、一緒に行くことにしてくれた。

何か事情があるのは明らかで、なんとなく聞けずにいたけど、実際のところ事情なんてどうでもよかった。
大切な幼馴染が困っているなら、助けたい。
そのことに理由なんていらなかった。

そう駆け出したのが少し前のこと。
今はコルネオの屋敷へ入るため推薦状を求めて、3人の推薦人の内の最後の1人であるマダム・マムのお店に向かっている途中。
サムさんのところにも行ったけど、コイントスの賭けに負け、予約が3年間埋まっていた蜜蜂の館のNo. 1であるアニヤン・クーニャンには会うことすら叶わなかった。

サムさんの話によれば、ティファはコルネオのお嫁さんになるためのオーディションを受けに屋敷に入ってしまった。
なんとしても、推薦状を手に入れてティファを助けたい。
ティファみたいに魅力的な女の人、コルネオが放っておくワケがない。
サムさんも自信を持って送り出したティファを"逸材"だと言っていたし、あたしもそれについては同じ意見だった。
だからこそ、心配でしかなっかった。
何かティファにとって、必要なことだったとしてもこんな無茶をして欲しくはない。

「開けるぞ」と言って扉を開くクラウドに続いて、マダム・マムのお店へと入る。
何処か異国情緒を感じさせる雰囲気と焚かれたお香の香りが、先ほどまでの焦った気持ちを落ち着かせてくれる。
カウンターの中にいたマムさんが振り返り、あたしたちを出迎えてくれる。

「いらっしゃいませ。お3人様ですね…って、なまえじゃないか。どうしたんだい?」
「こんばんは。今日はちょっとお願いがありまして…もちろん、筋は通します」
「…そうかい」

そう言った後でマムさんは視線を鋭くし、誠意はクラウドに受けさせると言って店の奥へと連れていく。
マムさんなら悪いようにはしないだろうけど、と思いながらクラウドの後ろ姿を見送った。
不安そうにしているエアリスに「大丈夫だよ」と笑うと、エアリスも安心したように笑ってくれた。



ーーーーーーーーーー



マムさんのマッサージを受けたクラウドは、うっとりとしていて少し様子がおかしかった。
エアリスは「変だよ」と心配していたけど、マムさん直々のマッサージの極上コースが余程気持ち良かったんだと思う。
男の人はみんな、マムさんのマッサージの虜になるーーーそんな話を前に誰かから聞いたことを思い出し、クラウドも男の人なんだなって思ってしまう。

「で、頼みってのは?」
「わたしたちをコルネオさんのオーディションに推薦して欲しいんです」
「そりゃ、随分と物好きだねぇ。なまえ、アンタも行くのかい?」
「はい」
「ふーん…まぁいいだろう」
「ほんと?」
「ただし、2人ともその格好のままじゃ駄目だよ。そんな貧乏くさい格好をした女を連れてったとあっちゃあ、代理人としての信用にキズがついちまうからね」

マムさんに言われて自分の服を見つめる。
確かに、戦闘するのに動きやすい服をと思って調達してるから、オーディション向きではないのは当然のこと。
ティファもドレスを着ていたし、あれぐらい着飾らないとダメなのかもしれない。
隣のエアリスも同じことを思ったのか、クラウドに「この格好だめ?」と聞き、チラリとこちらを見てから「俺は嫌いじゃない」と言ってくれた。

そっか。エアリスみたいな服が好きなんだーーーそんなこと思ってたら、クラウドと目が合う。
すっと視線を逸らして少し気まずそうにしてたから、どうしたのかと思ったけど納得する。

「エアリスを褒めたこと、心配しなくてもティファには言わないから大丈夫だよ」
「ティファ…?俺はなまえの服のこと言ったつもりだ」
「そ、そうなんだ…ありがとう」

こそっと隣に行って、周りに聞こえないように言ったのに、涼しい顔でそう言われてしまう。
どこで覚えてきたのか天然なのか、顔が熱くなるのがわかる。
他意はないんだろうけど、勘違いしちゃう女の子もきっといると思う。
とは言え、あたしの口からはどう指摘したらいいのかわからないから厄介だ。
お世辞だとしても、嬉しいから余計に。

「アンタら、イチャつくなら店の外でやっとくれ」

冷たく言い放たれ、エアリスが謝る。
イチャついてたワケじゃないって否定しようにももう話は進んでしまっていて、口を挟む暇もなかった。



ーーーーーーーーーー



マムさんから出された条件は"地下闘技場で開催されるイベントで優勝する"という、シンプルだけど難しい条件。
優勝すれば賞金が出るので、そのお金であたしやエアリスのドレスを準備してくれると約束してくれた。
闘技場に向かう途中、自信満々なクラウドにエアリスは微笑んで「足元掬われないようにね」と忠告する。
たとえこの街のイベントだとしてもクラウドなら問題ないなって思っていたあたしは、エアリスの言葉に気を引き締める。
いくらクラウドが強いと言っても頼りすぎもいけないかと少し反省しつつ、あたし自身も戦う術を手に入れたんだから、足を引っ張らないようにしなければ。
そう、闘技場の地下へ向かうエレベーターの中で気合を入れ直したのが、ついさっきのこと。

「次は決勝だな。何があるかわからない。油断するなよ」
「うん、任せて!」

あれよあれよと勝ち進み、次は決勝戦。
これを勝てば優勝し、マムさんとの約束を果たしてドレスを用意して貰える。
ティファを助けられるーーーそう力んでいたあたしにクラウドは笑うと「俺に任せろ」なんて言うから、あたしの心臓が跳ね上がり、それに気付いたエアリスが優しく微笑んでいた。

司会者2人の口上と、割れんばかりの歓声。
最初は圧倒的アウェイで、あたしたちへは声援はなく野次の声や下卑た声ばかり。
ムッとする気持ちを抑えつつ順調に勝ち進めば、それらの声は応援の声になり、今ではすっかりファンも出来ていた。
今ではゲートキーパーさんもあたしたちの応援をしてくれている。

腰の双剣を鞘から抜き、ぐっと力が入るのがわかる。
闘技場を包む熱気にあてられて、高揚感に包まれているのが自分でもわかる。
あたしってこんなに戦闘狂だったっけ?
そんな風に錯覚するくらい、心臓は高鳴り身体は軽い。

「なまえ、エアリス。行くぞ」
「うん!」

漲る力が溢れて止まらないような気がする。
未来をみたときとも、シヴァを召喚したときとも違う、全身から力が溢れてくるような感覚。
よくわからないけど、ティファを助けられるならなんでもいい。

ーーーその瞬間、なまえのグレーの瞳が紺碧に輝いたことに気付く者は誰もいなかった。



ウォールマーケット

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