それから何度か神羅兵と遭遇し、ザックスの予想通り、向こうにとってあたしは"捕獲対象"になってしまった。
あくまで生け捕りで、神羅への連行が目的だからあたしへの攻撃は控えめ。
どんな命令が出ているかはわからないけど、たぶん、あたしを傷付けることは許されていないのだろう。
兵士たちの攻撃に躊躇いがあって、だからこそ、こちらは側は有利で、以前より逃げやすくなっていた。
予知夢的な力の発動は七割くらいで、遭遇する時は開き直ってシヴァを喚び出したりしていた。

最初こそ、ごっそり魔力を持っていかれるのか、喚び出した後の倦怠感が激しくて、とても連戦が出来る程の体力はなかった。
それでも慣れと言うものは恐ろしく、今では何の支障もなく、他の魔法と同じ感覚でシヴァを喚び出す自分がいた。
ザックスは「ほんと、魔法のセンスあるよな」と言って笑ってくれているけど、そういう問題なんだろうかと疑問にも思う。

この世界にとって、異質な存在になってしまったことは自覚していた。
だから、こんな風にマテリアなしに召喚出来るようになったり、魔力量に関してもおかしくなってしまったのかもしれない。
それも、ザックスとあたしで同じマテリアで魔法を使って、威力が違う点は確認済みだった。
最初の頃は、所謂「1.5割増」の力だったが、シヴァを召喚してからは、また少し変化があった。

今だと、ザックスが「ファイア」を唱えたマテリアであたしが同じように唱えると「ファイラ」になる。
以前はあくまで「ファイア」の1.5割増だったのに、今は「ファイラ」+αだった。
「こおり」と「かいふく」は相変わらず効果が高いようで、シヴァを喚び出せるようになってからは「ブリザド」は「ブリザガ」+αくらいの力にになるから驚きだ。
戦闘においては良いことだし、あたしとしては、2人を護ることが出来るなら、今は理由なんてなんでも良かった。

ザックスには「これから先、未来が見えることと魔法の力については絶対に口外すんな!」と忠告された。
きっと、言ったところで誰も信じてくれないと思うけど、悪用される可能性も考えたら、信頼出来る人以外には言うつもりはなかった。
あたしとしても、未来が見えるなんて力をどう説明していいかわからない。

「ねぇ、ザックス…追手、少し減ってきた気がしない?」
「そう言われてみれば。一時期に比べたら…諦めてくれた、ワケねぇよな」
「うん。神羅にとってザックスもクラウドも排除すべき対象、なんだよね。あたしも実験体?とか言われてたし」
「あぁ。ヤツらがそう簡単に諦めるワケねぇし、与えた任務に関しては徹底してるからな。もしかしたら、そろそろタークスも動くかもしれない」

タークスと言えば、確か神羅のどこか直轄の戦闘部隊のエリートだった気がする。
詳しくは知らないけど、ザックスの口振りからタークスに見つかれば、今まで通りとはいかないのはわかる。
「用心しなきゃな」と言うので頷いた。

「よし!今日はこの辺でキャンプするか」
「そうだね」
「薪とか集めてくるから、なまえはクラウドのこと頼むな」
「うん、お願い」

ザックスを見送り、クラウドの前に座る。
相変わらず、治る気配はないけど、今は治療法がはっきりしていないので仕方がない。
以前、立ち寄った町にいたお医者様に看て貰ったときに「信じること」だと言われた。

現在、魔晄中毒は治療法はなく、星命学的に言えば、星の生命であるライフストリームと肉体を魂が行ったり来たりしている状態らしい。
本人も意識の集合体であるライフストリームから自身を取り戻そうとしているから、その人を知る周りの人間は決して諦めないでいることが大切だと教えてくれた。
気力次第だと、それしか言えないことをお医者様は恥じていたが、現実問題として仕方ないことは理解していた。
飛ばされていた世界は医療が発展していたが、治せない病気も悲しいことにたくさんあった。
これも同じタイプの病気なんだと思う。

そっとクラウドの両手を握り、今日も色んな話をする。
道中の話、ザックスが追手をカッコよく倒したのに、足を踏み外して川に落ちちゃったこと、立ち寄った町でのこと、色んなことを話した。

「あたしね、すっごい力手に入れちゃった。召喚獣が喚べるようになったの。しかも、マテリアなし!すごいでしょ?」

ーーー本当か?

「本当だよ。今は1人だけだけど、その内もっと喚び出せたりするかも!」

ーーーたくましいな。

「あたし、今ならクラウドのことだって護れちゃうくらい強いかも!」

ーーーどうだろうな。俺は弱くない。

「…知ってるよ。クラウドはずっと戦ってるもん」

だって、"あの日"からティファのことを護りたいって思って、ソルジャー目指したんだよねーーそう言ったら、クラウドからの返事はなかった。

たまに、クラウドとこうやって会話している感覚になる時がある。
夢か現実か、願望なのか、それがクラウド自身の答えなのかはわからない。
それでも、こんな風にでも会話出来ることが嬉しかった。
現実逃避に聞こえるかもしれないけど、クラウドが良くなっているのかもしれないと、そう思えるからだ。

クラウドの手を握り締めグローブ越しに体温を感じる。
こうやって、なるべくクラウドに寄り添って呼びかけて、存在を確かめるように告げる。
お医者様やザックスに言われたのもあるけど、あたし自身がクラウドの傍にいたかった。
あたしが呼びかけることで、クラウドが自分を取り戻せるならどんなことだってやりたい。

「…なまえ…」
「クラウド?!」
「…あぁ、なまえ」

あたしの声に答えるクラウドの声。
確かに名前を呼んでくれている。
夢でもなく、願望でもなく、現実に呼びかけてくれている。
ただ名前を読んでくれるだけで、なんで涙が溢れる程嬉しいんだろう。
幸せだと実感出来る程に、クラウドのことが愛しくてたまらない。
魔力を持つような中毒性のある呼び掛けは、きっと甘い毒のよう。
恋する者にしか効かない、特別な魔法。

「本当になまえなのか?」
「うん、ここにいるよ」
「…なまえ、俺は、」
「クラウド、大丈夫」
「俺、は…」
「アナタの名前はクラウド・ストライフ。ニブルヘイム出身のあたしの大切な大切な幼馴染」

そう言って抱き締めてるとピクリと少し反応を示す。
不安気に揺れ、迷子のような状態のクラウドに、アナタがアナタでいられるようにと祈り続ける。
あたしは、いつでもクラウドのことを想っているってこと、わかって欲しくて抱き締めた。
体格差で言えば、抱き締めたと言うよりも抱き着いたと言った方が正しいんだけど。

そっと背中に触れていた手に力が込もる。
遠慮がちに込められ、なんだか割れ物を扱うような仕草に笑ってしまう。
なんだか夢のようで、瞼が重い。

「クラウド?」
「…」

呼びかけるけど、返事はなかった。
また向こうに行ってしまったクラウドだったけど、抱き締めた腕だけは離さないでいてくれた。
それだけで、夢じゃないって言ってくれているようで、感じる鼓動に生きているんだって実感する。


「…アナタはクラウド。クラウド・ストライフ。ニブルヘイム出身の大切な幼馴染…あたしの、大好きな人。不器用だけど優しい…初恋の人だよ」



護りたい人

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