「…っ!」

起き上がると知らない部屋のベッドの上だった。
隣のベッドにはクラウドも寝ていて、どうやらあの後気を失ってしまったらしい。
窓の外が暗くなっていた所から、かなりの時間眠っていたらしい。

あの後、一体どうなったんだろう。
あの声は、一体なんだったんだろう。
何も手がかりはないけど、もう頭痛がないことだけは確かだった。

「なまえ!」

カタン、と物音がする。
音をした方を見ると、目を大きくしたザックスがいて、持っていた紙袋から荷物が落ちる。
物音の正体はそれだったらしく、転がる荷物に目もくれず、あっという間にザックスに抱き締められていた。
また、心配をかけてしまったらしい。

「もう、頭痛は平気か?他に痛いとことかないか?」
「平気だよ。それより、苦しい…」

あたしの言葉に慌てて謝りながら、抱き締めていた腕を離す。
まだ心配した表情を浮かべていたから、改めて「大丈夫だよ」と告げると、少しだけ安心したように笑った。

「あの後、どうなったの?」
「覚えてねぇのか?」
「うん…ザックスが心配してくれてたのは覚えてるんだけど、頭痛が酷くて…」
「そうか…」
「…あたし、何かしちゃった…?」
「なまえ…召喚マテリア、持ってないよな?」
「うん」
「…だよな。俺も持ってねぇし、そもそも貴重なマテリアルたしなぁ、アレ」

そう言いながら、うーんと唸るザックスの表情は、何て説明したらよいかわかんないと言う顔だった。
何かあったのは明らかで、召喚マテリアが関係しているのは明らかだった。
もちろん、装備しているマテリアの中に召喚マテリアなんてない。
そもそも、ザックスの言う通り召喚マテリアなんて貴重なものだから、そう簡単には手に入らないし、あれば逃亡生活にも余裕が出来るはずだ。

「ザックス、聞かせて」
「…俺もわかんねぇんだ。だけど、見たことだけ話すな」
「うん」

ザックスはクラウドの眠るベッドの空いてるスペースに座り、言葉を選ぶように話し始めた。
あたしは頭痛に苦しんでる間「何か声が聞こえる」と言いながら、前よりも辛そうに頭を抱えていたらしい。
しばらくすると、神羅のヘリがこの辺りにいた兵たちに合流しようと通りかかったらしく、運悪く見つかってしまった。
どうにか逃げきれないかと模索していたら、蹲っていたあたしが立ち上がり、空に向かって右手を掲げて何かを叫ぶと、周囲が凍りつき、シヴァが召喚される。

「駆けつけた兵士も一気にシヴァが倒したんだ。何度もなまえのこと呼んだけど、返事はなかった…しばらくしたらシヴァは消えて、なまえは気を失ったんだ」
「…そうだったんだ」
「なぁ…あれは、なまえの力か?」

ザックスの言葉に頷く。
あの声の正体はわからないし、力を使った瞬間のことは覚えてないけど、きっと力を貸してくれたことは間違いないと思う。
あの声に従って、ただ「護りたい」とだけ願った。
どうやって喚び出したかはわかんないけど、なんとなく、今も願えば来てくれるんじゃないかと、そんな確信だけはあった。

「うまく、説明出来ないんだけど…たぶん、今も喚び出せる気がするの」
「…確かに、俺やクラウドを護ってくれてた。なまえの意思を感じた気がする。でも、覚えてないんだよな?」
「うん…神羅にバレたかな…?」
「報告はされてた。追手はなまえが全部倒してくれたから、ここは安全だ」
「良かった…」
「…たぶん、次はお前も狙われる。悪かった。護りきれなくて」
「ううん。あたしも、ザックスやクラウドのこと護りたいの…きっと、力になってくれる」

やっと、あたしでも2人を護ってあげられる。
力を手に入れたことは自信になるけど、同時に使い方を見誤らないようにしたいと思った。
こんな強大な力、過信して使えばあっという間に飲み込まれる。

あの声は、あたしの"願い"に答えてくれると言った。
"祈りの力"がどういうものかわからないけど、いつか答えを知りたい。
この力の意味も、どうして使えるのがあたしだったのか。
それでも今は、大切な人を護る力を得たことを喜ぼうと思う。


そう決意する横で、悔しそうにしたザックスの表情に気付くことは出来なかった。



チカラの代償

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