神羅の追手から逃げながら、色んな場所を転々としてから半年くらいの月日が流れた。
力と向き合ってみるけど、相変わらず使いこなせる気配はなく、突然の頭痛と共に発動される。
最初は薄ぼんやり見せてくれていたのに、あの日を境に、この力は頭痛と共に発動するようになった。
それでも頭痛はすぐ治まるし、気を失う程の痛みがあったのはあの日だけ。
見える映像も鮮明化したし、場所もハッキリとわかるようになったので、その辺りは良かったけど…こう、もうちょっと何か違う方法で知らせて欲しいとも思う。

さっきもその頭痛があったばかりで、神羅の追手をやり過ごしたばかり。
ここ最近多いような気がするし、この辺りから早めに離れた方がいいかもしれない。

「なまえ、眉間のシワ。可愛い顔が台無しだぞ」

悪戯に笑うザックスはあたしの額を小突く。
そんなにかな、と小突かれた額をさすりながら言うと豪快に笑う。
こういうザックスの明るいところ、元気が出るし、あっという間に落ち込んでいた気持ちがどこかにいってしまう。

「まだ頭痛いか?」
「もう平気だよ。この力…もう少し使いこなせれば、ラクになるんだろうけど…」
「まぁ確かになぁ…だからって無理すんなよ。お前に倒れられたら、クラウドに怒られるの俺なんだからな!」
「あははっ」
「笑い事じゃねぇって」

項垂れた姿はまるで怒られた仔犬、いや、人懐こい大型犬のよう。
垂れた耳と尻尾が見えるようで、更に笑ってしまう。
不貞腐れた様子のザックスだったけど、すぐに一緒に笑ってくれて、なんだか肩の力が抜けたような気がした。

身構えていたからって力の使い方がわかるワケじゃない。
このままわからないままかもしれないけど、もしかしたら何時間後かには使えるようになっているかもしれない。
それぐらいゆとりを持っていた方が、こんなイレギュラーな力に対応出来るのかもしれない。
そんな風に考えられるから不思議だ。

それから、地図を広げて改めてどっち方面に逃げるか考える。
長い間、一箇所に留まることは出来ず、今まで行った場所にあえて戻るのもありかもしれない。
その中でもミッドガルからなるべく遠く、神羅の目の届きにくい場所のピックアップするも、なかなかそんな場所はなさそうだ。
神羅はヘリや船、飛行艇や潜水艦など、ありとあらゆる乗り物を持っている。
元々、兵器開発やそっち方面に事業を展開していたのだから、当たり前だ。

「あえてミッドガルの近くまで戻るのはどうだ?今までずっと遠ざかってたんだ。アイツら油断してくれるかも」
「うーん…最初はいいかもしれないけど、やっぱり監視の目とか考えると、怖い。見つかったときに増援が呼びやすいし、あっという間に囲まれちゃうとさすがに逃げ切れないよね…」
「…だなぁ。さすがに人数で攻められたら、いくら俺でもなぁ…」

それから、色々と案は出し合うけどこれと言っていい案は浮かばなかった。
このまま話し合いを続けても平行線になりそうなので、ひとまずこの辺りから離れようと出発する。

数時間前に神羅兵と出くわして、うまく避けることが出来たので大丈夫だとは言え、油断は出来ない。
最近は数で攻めて、こちらの体力切れを狙ってなのか、見掛ける神羅兵も小隊を組んでいるみたいだった。
それだけ、ザックスを捕らえるのは神羅にとって最優先事項なんだと思う。
もちろん、人数が多い分目立つので、見つけやすく逃げやすいが、戦闘になったときは苦労するだろう。
増援を呼ばれたり、本部に連絡されればザックスがいるとは言え、苦戦を強いられる可能性もある。
それだけは避けなくてはならないので、警戒は怠らない。

「っ…いたぞ!!対象者3名を確認!」
「ザックス・フェア、クラウド・ストライフ、それから逃亡幇助の可能性がある少女を1名発見!これより、戦闘に入る!」
「っクソ、なまえ、いけるか?!」
「うん!」

クラウドを木の影に隠し、剣を構えて対峙する。
さっきうまく撒くことが出来たからって油断していた。
いくら向こうに見つからなかったとは言え、近くにいたなら巡回の兵士がいて当然だ。
なんとかこの場をやり過ごし、出来るだけ遠くに逃げるかやり過ごすかしなくてはならない。
視線を合わせれば、ザックスも同じように考えていたのはすぐわかり頷いて合図を送る。

目の前の兵士は2人。
取り出した通信機をサンダーで破壊し、この後の連絡手段をなくしてしまう。
それでも、少ししか時間は稼げない。
発見の報告はされてしまっているから、手早く済ませてどれだけ遠くに逃げられるかにかかっている。

「…させない!」

向こうの攻撃を交わして武器を落とすと、ザックスが手早く片付けてくれた。
目配せして、ザックスがクラウドを背負うと木々に隠れながら走る。
見つかった場所が森の中で良かったと安心しながら、周囲を気にしつつ懸命に走る。



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途中にあった橋を渡り、念の為落としておいた。
元々ボロボロだったので、落ちた時期は誤魔化せるだろうと踏んだが、こちらの思惑通り疑われることはなかったようだ。
あれだけ騒がしかった人の声が遠くなっていく。
だからと言ってまだまだ油断は出来ないので、今のうちに出来るだけ遠くへ逃げたかった。

「…っ!」
「なまえ?おい、なまえ!」
「ザ、…ス…?」
「大丈夫か?!」
「わかん、ない…なんか、呼ん、でる…?」

突然、頭痛が襲う。
久々に感じる激しい痛みに、歩くことすら適わず座りこんでしまう。
そんな場合じゃないのに、身体が言うことを聞いてくれない。

いつもの頭痛とも、この間の頭痛とも違う。
激しい痛みと共に誰かの声がする。
透き通った綺麗な声色が悲しそうに、でも嬉しそうにも感じる。

不思議な声が何かを告げる。
頭痛が酷くてうまく聞き取れない。
それでも、何故か呼ばれている感覚だけは確かにあった。
懸命に聞き取ろうとするけど、ガンガンと響く痛みがそれを邪魔する。

ザックスが心配そうな瞳で見てる。
平気だよ、そう言いたかったけど、言葉がうまく出てこない。
うまく笑えたのかすら、わらからない。


ーーーねぇ、キミの力になるよ。


「だ、れ…?」


ーーーキミの大切な人、護る力。


「ちか、ら?」


ーーーそう。祈りの力、今はもう大丈夫だから。


「いの…り」


ーーー声、ちゃんと届くよ。だから、喚びかけてみて。


「……お願い、シヴァ。力を貸して」


身体の中から力が溢れ出すみたい、熱い。
微笑んだ氷の女王は、喚びかけに応じてくれたようで、寄り添ってくれた。



ーーー最初だから、力加減難しいよね。ちゃんと教えてあげたいけど、今は私に任せて!

そう笑った声の後、意識は何かに飲み込まれた。



覚醒

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