「なまえ!」

そんな慌てた大きな声に目を覚ますと、声の主であるザックスは安心したように息を吐いた。
どうやら気を失っていたらしく、頭がクラクラする。
ゆるゆると起き上がるあたしに「無理すんなよ」と手を貸してくれた。
その手を取って起き上がりながら、先ほど見た映像を思い出す。
今までとは違う、ハッキリとした映像は近い未来の出来事のように思えた。

ミッドガルの近くの岩場で、大勢の神羅兵に囲まれながら、ザックスが1人戦う姿。
ボロボロになりながらも追手を倒し、たくさんの傷を負って倒れてしまう姿。
クラウドに何かを告げ、バスターソードを託し、場面が変わって…大きなリボンを付けた茶色の髪の女の人が泣いてた。

「なまえ、大丈夫か?」
「…エアリスが、泣いてた」
「エアリスが?いや、それよりなんでなまえがエアリスのこと…」
「わかんない。さっき見えたの。ザックスがミッドガルの近くにいて、戦って…その後、場面が変わって女の人が泣いてたの。手紙…握りしめてザックスって…泣いてた。あの女の人がエアリスなの…?」

泣くな、そう言ってザックスはあたしの瞳から涙を拭う。
先ほど見たものと同調したからなのか、気が付けば涙が溢れて止まらなかった。
映像で見たエアリスと言う女の人は、初めて会う人だから名前だって顔だって知らない人。
なのに、何故か懐かしくて温かい、陽だまりの中にいるような感覚だった。

「お願い、ザックス。ミッドガルに戻るのもう少しだけ待って。ザックスがしなくちゃいけないこと、決着つけなきゃいけないことなのもわかってるんだけど…クラウドもエアリスも悲しませたくない」
「…考えさせてくれ。今すぐは頷けない」

そう言ってザックスはテントから出ていってしまった。
ザックスのことを思えば伝えるべきではなかったかもしれない。
それでも、あたしは誰にも悲しんで欲しくなくて、ただのエゴを押し付けた。
それを、泣いて縋るなんて最低だ。

だから、最後はザックスがどんな答えを出そうとも着いていく。
たとえ、ザックスがそれを嫌がったとしても、そこだけは譲れない。



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あたしはクラウドと1つの毛布に包まり、眠りにつく。
あんな怖いものを見た後だから眠れるはずもないけど、目を閉じて身体を休めることだけ考える。
ザックスはあれから戻ってくる様子はなく、テントの中はクラウドと2人きり。
今日はもう戻ってこないつもり、なのかもしれない。

「…クラウド」

ぎゅっと握った手が温かくて安心する。
クラウドが生きている、それを感じるだけで不安な気持ちが和らいでいく気がする。
最近では、あたしやザックスの声にたまにだけど薄く反応をしてくれる。
クラウドも頑張っているんだって思ったら、全力で支えたかった。

あたしのことは覚えてくれているだろうか。
7年前、別れたあの日から成長した彼は、少しだけ長かった髪の毛を切って、大人びた顔をしていた。
どんな声で、どんな顔で、あの頃の面影はあるのだろうか。

「クラウドにたくさん伝えたいことがあるんだ。起きたら、いっぱい話そうね」

面倒くさそうにしながらも聞いてくれた幼い頃の記憶。
でも、優しいアナタなら…そこは変わらないんだって。
そんなことを考えながら、ゆつくり意識を手放す。

「なまえ」

誰かが名前を呼んで、溢れる涙を拭う。
それが心地よくて愛おしくて、あぁ、なんて幸せなユメなんだろう。

「ありがとう、なまえ。俺は…」



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「…ミッドガルに帰るのはしばらく先にする」

翌朝、ザックスは真剣な顔であたしに告げた。
ザックスの大切な誇りや気持ちを踏みにじったあたしに、ザックスは困ったように笑って「エアリスを悲しませたくないんだ」と、そう言う。
だから、そんな顔をするなと、エアリスを泣かせずに済んだなら良かったと言って笑う。

「よし!そうと決まれば今後の方針決め直さなきゃな。なまえの力、期待してるならな」
「…うん!絶対に2人のこと護るから!」
「護るのは俺の仕事。ソルジャーの力、ナメんなよ」

そう言ってあたしの頭を撫で回すザックスに、髪の毛ぐちゃくちゃにしないでよ、と抵抗するけど、楽しそうに笑ってるから、何かどうでもよくなった。

でもね、ザックス。
この力で、2人を、会ったことのないエアリスを護ることが出来るなら全力で使うよ。
クラウドを救うため、その為に帰って来たって言ってくれたけど、あたしはクラウドを含めて、大切な人を護る為に、この力を得て帰ってきたんだと思う。
そう思うと、心が温かくなる。
身体の中から、巡る血のように、力がみなぎるような気がする。
この気持ちに答えてくれる、そう信じることが出来るから。



チカラの目覚め

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