翌朝、あたしとザックスは近くの町まで買い出し 来ていた。
目的はあたしの服と装備品、逃走するならザックスとクラウドの服装も変えた方がいいので、それらの調達だ。

最初、ザックスはあたしが逃亡の手伝いをすることに反対していた。
逃げ切るつもりだか、危険が伴う旅に巻き込むワケにはいかないし、あたしに怪我させたらクラウドに合わせる顔がないと言い、それに対して反論した。
逃げるなら、男2人より女のあたしが混ざってる方がカモフラージュ出来ること、聞き込みだってスムーズにいくこと、戻ってきたばかりだけど戦えるってアピールする。
結局折れたのはザックスで「言い出したら聞かねぇのな、お前は」と呆れつつも優しく笑ってくれる。

町に着いて、ある程度調達を終えた所で宿屋に併設されているカフェで一休みをする。
幸い、神羅の目はここまで届いていないらしく久々にゆっくり出来るとザックスは笑った。
着替えたことにより、あたしとザックスはすっかり町中に溶け込んでいる。
クラウドは宿屋のベッドに寝かせていて、今日はこの町で一泊する予定だ。

本来なら、宿での一泊は危険だ。
ただ、町の人たちのほとんどが神羅兵に良い印象を持っていなかったので、たとえ情報提供を要求されてもしばらくは平気だろうと踏んだ。
こんなに反感を買うほどのことをしたのは許されることではないが、今は少しだけその兵士たちに感謝する。
周りを常に警戒し、あくまで自然を装うザックスはさすがクラス1stのソルジャーだ。

「今後の方針だが、俺はミッドガルに戻るつもりだ」
「ミッドガル?!いくらなんでも危険だよ!ザックス、神羅に狙われてるんでしょ?」
「…あぁ。でも、帰らなくちゃ…約束したから」

そう言って目を伏せたザックスは、ぐっと拳を握る。
大切な約束なんだと言うことは痛いほど伝わってくる。
無謀だし、もう少し情報を集めてからのがいいのは明らかだし、戻るにしても時間をあけた方がいいはずだ。
それでも、なんて言葉をかけていいかわからない。

「でも、今はなまえが戦う感覚を思い出すのが先だな。あんまり時間はかけてやれないけど、お前、戦えるって言ってたけど、マテリアの使い方ちゃんとわかんねぇだろ?」
「ふぇ?」

思わず声が裏返ったあたしに、ザックスは豪快に笑う。
さっきまでの顔が嘘のように、太陽のような笑顔を浮かべていた。
あたしに気を使わせないようにしていると言うことはすぐにわかる。

それなら、あたしも早くザックスが安心出来るように、2人を護れるくらい強くなろう。
ミッドガルに戻るって言うなら、あたしも一緒に戦えばいい。
たとえ神羅を敵に回すとしても、大好きな人の親友を護るくらいの気概を示せばいい。

「うん!よろしくお願いします、先生!」
「おぅ!任せとけ!」



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翌日から、あたしの特訓は始まった。
マテリアと並行して剣術も身に付ける。
武器屋で色々と試させて貰った結果、しっくり来たのは細身の双剣。

「センスいいじゃん、なまえ!」とザックスが褒めてくれるぐらい、戦い方はすぐに身についた。
最初は弱いモンスターから挑戦して、今では中級レベルのモンスターなら1人で倒すことが出来た。

マテリアの方は自分でもビックリするくらい、何の問題もなく使うことが出来た。
むしろ、ザックスとあたしではまるで効果が違うようで、大して育っていないマテリアでも1.5倍の効力があったんだから、驚きだ。
特に「かいふく」と「れいき」の効果は他のマテリアより群を抜いており、いくら向き不向きがあるとは言え、少し違和感があった。

「もしかしたら、別の世界に行ってたことが関係してるかもな…まぁとりあえず、この話は他言しない方がいいな。信じる信じない以前に、神羅に目をつけられる方が危険だ」
「そうだね。気をつける」
「あと、その力もな」

今は別の町へとキャンプをしながら移動中。
こちらの世界に戻ってから、最初の1週間は同じ町に居て特訓をしていたが、何だか胸騒ぎがして、ザックスに無理を言って半ば強引に出発した。
だから、町からかなり離れたところで出会った行商人たちから、神羅兵がその町に向かっている話を聞いた時は信じられなかった。
それは、言った本人であるあたしも一緒で、"ラッキーだった"としか思えなかったのに、ことある事に"何か"が見え、神羅兵との接触を避けることが出来たのだ。

最初は薄ぼんやり、胸騒ぎがするとか、嫌な予感がする程度のものだったけど、あれから1週間経った今では、まるで未来予知のような映像が見える。
そんな力があったことも、魔法についても、今まではなかったことだし、むしろマテリアの使い方だってちゃんと知らなかったんだ。
見たことはあったけど、ニブルヘイムで過ごしてた時はもちろん、別の世界に居たときは、魔法なんてものはおとぎ話の中にしか存在しなかった。
戻ってきた途端、目覚めた力とするのが1番しっくりくる答えだったけど、それが何かと形容するのは難しい。

「今日はこの辺りでキャンプにしよう。あの大きな木の辺りなら隠れられる場所も多そうだな」
「うん。じゃあ、あたしは水汲んでくる!」
「気をつけろよ!」

ザックスに手を振り、近くの川へ向かう。
澄んだ川の水は冷たくて、歩き疲れて火照った身体には心地よかった。
戻ったら、ザックスにもクラウドを連れて川で水浴びでもして疲れを癒して貰おう。
あたしよりも、ずっと気を張っているだろうから、少しでも癒されればいいなと思う。

水を汲んで戻り、ザックスを川へと送り出し、夕飯の準備を始めようと材料を確認する。
もちろん、旅は続くので節約しなくてはならないので、簡単な物しか作れないけど。

「今日はシチューかな」

鼻歌混じりに材料を取り出し、火を起こそうとした瞬間、突然耳鳴りがしたかと思えば何か映像が見えた。
でも、これはいつもとは違う感覚。
頭が痛くて、目の前がチカチカするし、まるで記憶が戻ったときのような情報量。

あれは、ザックスとクラウド?ーーーそう思った瞬間、あたしは意識を手放した。



特訓

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