囚われの身となってから、1ヶ月程が経った。
季節は巡り、あたしがこの世界に来てからもうすぐで1年が経とうとしている。

あれからずっと、この部屋での軟禁状態が続いている。
与えられた部屋はかなり広く、娯楽はかなり充実していて、テレビや雑誌、本棚は幅広い分野で埋まっていた。
望めばある程度のものは手に入るも、自由に過ごせるのはこの部屋のみ。
最初は色んなもので暇を潰していたけど、1ヶ月経った今では退屈なだけ。
実験体にならなかっただけマシだとは思うから、贅沢な悩みなのかもしれないけど。

「おーい、なまえ。レノ様が来てやったぞ、と」

まるで自分の部屋に帰ってきたかのように、部屋の中央部にあるソファーに腰掛けテレビをつける。
あたしが思わずため息をつくと、ムッとするような素振りを見せながらも「こっち来て、一緒に映画見ようぜ」と操作を始める。

副社長に護衛を命じられたレノは、こうやって毎日決まった時間にやってきて、あたしを退屈させない為に色んな話をしてくれる。
今日みたいに面白い映画があったとか言って、ソフトを持って来てくれる日もある。

レノが来れない時は相棒のルードさんが来たり、気まぐれに副社長自ら来ることもあった。
ルードさんはレノとは対照的で話すことが苦手らしいが、あたしの質問にちゃんと答えてくれるし、色々と教えてくれる。
副社長は好きなように過ごして行くけど、訪ねて来るときは決まって、高価な紅茶や珈琲、お菓子を手土産にもってきてくれる。

囚われの身とは言え驚くほど快適で、覚悟していた実験などは起こりそうになかったから、正直拍子抜けだった。
それでも、痛いのは嫌だから助かってはいるんだけど、外の情報が入ってこなくて不安ばかりが募る。

ザックスやクラウドは無事だろうかーーー窓の外を眺めながら思う。
レノは「ザックスたちが捕まったり、始末された報告は今の所ないぞ、と」たまに情報をくれるけど、囚われの身ではそれが限界。
今どこで何しているかなんてことわかりないし、あの時あんなことしたあたしには、こんな風に思うことさえ許されないのかもしれない。
それでも、無事でいてくれるなら恨まれたって構わないと思いながら、ザックスがそんな風に恨んだりしないことは理解していた。

きっと心配してくれている。
あたしが2人を心配するのと同じように。

眼下に広がるミッドガル。
今いる部屋はかなり高い場所にあるのか、窓の外を眺めたところで、そこに住まう人々の様子はわからない程高く、街の様相すら小さく霞む。
大きくため息をつくと、部屋の扉が開いて副社長が入ってきた。

「まるで塔の上のプリンセスのようだな」
「生憎、そういうのは柄じゃないんですよね」
「いいや、よく似合っている。お前の王子はここまで辿り着けないだろうがな」
「…いいんです。無事なら、それで」
「献身的な姫だな。従順なのも好ましいが、私としてはこの間の方が好みだ」

副社長は毛束を取り、そこに口付けを落とす。
相変わらずのキザっぷりだったが、そこになんの感情もなかった。
この人が欲しいのはあたしの能力。
だから、なんのトキメキも生まれない。

「やはり、お前は自由に羽ばたく方が美しいのかもしれないな」
「大人しいタイプではないかもしれません」
「ますます私好みだな…どうだ、本気で私の物にならないか?」
「…紅茶、いれますね」

不敵に笑った副社長から離れキッチンへと向かうと、後ろから楽しそうに笑う声が聞こえる。
「貴方の為に使うチカラはない」と、そう伝えたかったけど、それを言ってクラウドたちに危害が加わるのが怖かった。
レノがくれた情報では、ザックスもクラウドも捕まった報告はないと言ってたけど、それが全て正しいとは限らない。
あの時は見逃してくれたけど、次に会った時はどうなるかわかんない。

「…はぁ」
「怖いのか?」
「あ…紅茶ならもう少しで…」
「私なら、お前の恐怖を取り除いてやれるぞ、なまえ」

いつの間にかキッチンに入ってきた副社長は、そう言ってあたしの顎を持ち上げる。
あたしのため息を聞いて、まるで慰めるような優しい手つきで触れてくる。

確かに、この人ならあたしの不安を取り除いてくれるかもしれない。
でも、それをしたことで何も得られない。
もう2度と、クラウドと会えない。
そんなの、あたしにとっては何の意味もない。

「…確かに、そうかもしれません。でも"本当の願い"は貴方では叶えられないから」

そうきっぱりと告げると、副社長の目が一瞬見開かれたが、すぐにすっと細そめられる。
ぽたぽたと、蛇口から水滴が落ちる音が規則的なリズムを刻みながら響く。

視線は絡み合ったまま。
逸らしてしまえば、その時点で全てを飲み込まれてしまうような気がして、逸らすことが出来ない。
そんな時間が無限に感じたけど、実際は数秒間、あるいは数分間の出来事だったかもしれない。
副社長が顔を逸らし大きくため息をつくと、その後で楽しそうに笑う。
今のどこにそんな笑える要素があったのか、不思議でたまらなくて、きっと今のあたしの周りには?マークだらけ。
副社長はそんな様子でさえも、きっと楽しんでる。

「あの…?」
「なまえ。今からお前を自由にしてやる」
「………え?」

副社長の発言に理解が追いつかず、つい間抜けな声が出てしまう。
それに再び笑った副社長は「ただし、条件がある」と言った。

今から24時間以内にこのビルから抜け出し、逃げ切れれば、あたしの勝ち。
24時間後には、あたしの手配を取り消すよう、全兵士、およびタークスに副社長権限で通達すると約束してくれるらしい。
もし逃げきれなかったり、科学部門に見つかれば負けで、副社長にチカラを貸すこと…つまり、今と変わらぬ籠の鳥だ。
この条件、受けても受けなくても、副社長にはそこまで損はない。
逃げられたとしても、あたしの力の協力が得られないだけで、それは、今と対して変わらない。

それに引き換えあたしは、この条件を飲む以外、ここから脱出する術がない。
彼の性格もあるとは思うけど、デメリットがない以上、余裕なんだと思う。

「…どうだ?受けるか?」
「そうですね。それ以外選択肢はなさそうなので」 「では、お前にこれをやる」

そう言って渡されたのはレノたちが持ってたのと同じタイプのスマホ。
このビルの地図も入っていて、逃げるのに使えということらしい。
地図を開くと今の位置情報がわかり、69階にある一室にいることがわかった。
副社長の言う"塔の上のお姫様"と言うのも、あながち間違いではないみたいだった。

黙るあたしに、副社長は「安心しろ。盗聴器やお前を探るためのGPSなどはついていない」と言いながら、操作方法など教えてくれた。
電話帳にはご丁寧に副社長とレノとルードさん、ツォンさんの4人が登録されていて、そこで初めて副社長の名前が"ルーファウス"だと知る。

「私が部屋を出てから30分後にゲーム開始だ。私を失望させるなよ、なまえ」



カゴの中の鳥

prev | next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -