「よし!」

気合いを入れるようにつぶやいて、周りに誰もいないことを確認して部屋を出る。
副社長が出ていってから30分後の今から、この脱出ミッションはスタートした。
地図アプリでわかるのは、現在地と各フロアの見取り図。

副社長は、あれからこのスマホの使い方を丁寧に教えてくれた。
意外と面倒見がいいのかと思ったけど、そういうワケではないようで。
所謂「簡単に捕まっては面白くない」と言うことらしい。

ひとまず、部屋で大まかに考えたのは、階段で1階まで降りるか、途中で一般社員に紛れてエレベーターを利用するかのどちらか。
安全なのは後者だと思う。

一般社員には顔は割れてないし、これだけの大企業ならフロアが同じか、プロジェクトが同じとか、何か関係がなければ知らない人だらけだ。
こっちの方がリスクが少ないと思って、部屋のクローゼットを探したものの、あったのはワンピースなどの可愛らしい服か、絶対必要のないドレスが数着と着心地のよい部屋着だけ。
当然、変装に使えそうなスーツなどはなかったので、この案は却下となった。

仕方なく、元々着ていた服に着替え、返却済の双剣を腰に差す。
装備していたマテリアもちゃんと返してくれた所を見ると、その辺りはフェアでいてくれるらしい。
最悪、兵士は倒しちゃえばいいかなと、ちょっと物騒なことを考えつつ、非常階段を探す。

この格好でも、一般社員の人には顔は割れてないだろうから、きっと見回りの兵士とか、外から来た傭兵とか、まぁいくらでも誤魔化せると思う。
問題は兵士に見つかったときで、通報なんかされたらアウトだ。
と言うよりも、副社長から出された条件を考えればグレーだけど、あくまで"科学部門に見つからずに24時間以内に脱出すること"だから、兵士は倒してしまっても問題はない。
それでも、なるべく不要な戦闘は避けて脱出したいし、今後の体力も考えたら、尚更だ。

「…よし。非常階段発見。科学部門のフロアは65階辺りと20階がオフィスフロアだから、そこは気をつけなきゃ」

もちろん、他にも気をつけなきゃいけない所はたくさんあるんだけど。
まずは、このチャンスを物にして自由になって、それからクラウド達の無事を確認したい。
ここにいるよりは、情報を集めやすいはず。

「クラウド、ザックス…無事でいてね」



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様子を見ながら、なんとか1階まで辿り着いたけど、問題はここからだった。
出入口な分、警備は充分で、今までとは比べ物にならない程、あちこちに兵士が配備されていた。
流石、天下の新羅カンパニー。
セキュリティは万全で、社員ですら出入口でのIDカードは必須で…まぁ、こんな大企業じゃ当たり前だとは思う。
お昼時や帰宅時間に合わせて、人混みに紛れて出ようと思ったけどそれも難しく、タイミングを逃してしまった結果、今は物陰でひっそり息を殺している状態だった。

最終手段…とも思ったけど、どこまで戦闘が続くかわからないし、かと言って、いつまでもこのままと言うワケにもいかない。
タイムリミットは刻一刻と迫り、それでも、まだ半分以上はあるけど、出来れば暗くなる前に脱出したい。
逃げ出した先が安全とは限らないし、もしかしたら、モンスターもいるかもしれない。
土地勘がない分、体力は温存しておきたい。

「スリプルで眠らせる?それとも、シヴァ…は、ダメだ。そもそも、ここにずっといるワケにはいかないし」

今ある自分の武器を見つめる。
双剣と装備している防具とマテリア。
シヴァは最終手段にするとして、やっぱり眠らせて、報告される前に出来るだけ遠くに逃げるのが1番いい。

「…狙いを定めて…少しの間、眠っててね」

パタパタと、音を立てて倒れていく兵士たち。
ゆっくり近付いて、無事に眠っていることを確認する。
IDカードを拝借し、入口から出た後は扉の前にカードを置いて、出来るだけと神羅ビルから離れることを考えて走る。
正直、こんなにあっさり脱出が出来るとは思っていなかったので拍子抜けしてしまったけど、タイムリミットまでは油断出来ない。

車もバイクもなく、身分証のないあたしでは電車は乗れない。
つまり、徒歩で神羅兵やその他追手を、あと半日かわさなくてはならない。

それなら、目指す場所はただひとつ。
プレートの上より、スラム街に紛れた方が神羅の目は届きにくい。
治安はよくないだろうし、モンスターも出たりする話は、以前ザックスに聞いたことがある。
それでも、ここに来たばかりの戦う術を知らなかった時とは違って、今ならなんとかなると思う。

スマホの地図アプリを開き、ミッドガルの全体図と自分の位置を確認する。
どこも遠いけど、今の位置から近いスラムを目指す。
ひとまず、神羅ビルを離れて、それから近いスラムに紛れ込むことだけを考えよう。

逃げて、逃げ延びて、それから自由を。
そうじゃないと、クラウドたちの無事を安心して確認できない。
今はただ、無事を祈るだけだから。



脱出ミッション

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