「…あーハイハイ。わかってるぞ、と」

ヘリから降りて連れてこられたのは、広めの執務室のような場所。
てっきり、実験体としてすぐに引き渡されると思っていたから、拍子抜けしてしまった。
レノは誰かからの電話を受け、ダルそうに返事しながら、何度か受け答えをした後で電話を切った。

レノの持つ電話は向こうの世界のスマホと大差がないようだが、貴重なものなのか、持てる人間は限られているようだ。
その証拠に、今まで出会った一般の兵士たちの通信手段は一昔前のPHS型のものかインカムみたいなもので、全員に支給されているワケではなく、それを使えるのは、部隊長とか一部の者だけ。
スマホが割と高価な物なのは向こうもこちらも変わらないみたいだけど、普及率は段違いだった。

レノは近くのソファーに腰掛け、あたしにも座るように促す。
別に立ったままでも良かったけど、レノはあたしが座るまで、ずっとこっちを見てくるだろう。
それ所か「そんなに頑なに座らねぇなら、俺の膝に座らせるぞ、と」と腕を伸ばすから、慌てて近くの椅子に腰掛ける。
あたしの反応を楽しむかのように笑いながら「残念」と言うから、タチが悪い。
たぶん、あのまま座らなかったら本当にそうした気がする。

「そんなに固くなるなよ。もうすぐ来るから大人しく待ってろよ、と」
「…誰が来るの?実験の担当の人?」
「いいや。その前に会わせなきゃなんない人がいてな」
「会わせたい人?」
「まぁ、俺としては会わせたくねぇんだけどなぁ」

一体誰なんだろうと、そう思いながら扉が開く音がする。
レノは立ち上がって、その人物を出迎えるぐらいだから、きっと上司かそれ以上の立場の人なんだろう。

金よりも銀色に近い髪色の、白いスーツを着こなした男性。
その後ろには黒い長髪の男性が控えていた。
白いスーツの男性はあたしを見定めるように上から下まで視線を動かし、なんだか居心地が悪い。

「お前はマテリアなしに召喚を喚び出したそうだな」
「…それが、何か?」
「指示があったとは言え、宝条に渡すのは惜しいな。これ程の逸材、私の元で使いたいものだ」

そうやって、また値踏みする男性。
正直言って不快だったけど、今は我慢するしかない。
それより、いったいこの人は誰なんだろう…そんな視線を後ろに控えていた男性に向けると、あたしの視線に気付いたらしく、白いスーツの男性に声をかけた。

「副社長、いかがいたしますか?」
「っ!?」
「そうだな。一先ず、宝条の方は誤魔化しておけ。報告もまだなんだろ?」
「えぇ。レノが渋りまして」
「はぁ?!俺の所為かよ?!」
「レノ、よくやった。褒美になまえの護衛はお前に任せる。安心しろ…しばらくお前は私管轄だ」

まさか副社長だったとは…。
驚くあたしを他所に、どんどん話を進めた副社長は部屋を出ていく。
こちらとしては、何も安心出来ないんだけどな。
去り際に「必ず、お前を手に入れる」と言って出ていく姿は自信に満ちていて、こんな状況でもなければドキっとする台詞だったかもしれない。
まぁ、単に言葉通りの意味で、必要なのはあたしの力だとわかっているからドキドキもしないんだけど。

部屋にはレノと2人きり。
護衛なんて何するんだろう?と思っていると、副社長が出ていくまで固まっていたレノが振り返る。

「あー…なまえ。お前はこれから何したい?」
「じゃあ、教えて。古代種について」
「そんなんでいいのかよ」
「…ここから出られないなら、知らないこと知りたい。護ってくれるんでしょ?」

わざとらしくウィンクしてみると、レノは一瞬だけ驚いた顔して、でも楽しそうに笑ってくれた。
宝条とか言う人の所に連れて行かれたら、きっと実験体として閉じ込められてしまう。
こんな風には笑えないだろう。
それを思うとツラくなるけど、それなら出来るだけ楽しいことを思い出にしたい。

「よし!そんななまえちゃんには、俺が手取り足取り講義してやるよ、と」
「セクハラはんたーい!」
「こんなイケメン目の前にしてセクハラなんて、なまえはお子様だな、と」
「イケメンは自分でイケメンなんて言わないんですー」
「はぁ?そんなこと言うのは、この口か?あ?」

レノはあたしの両頬を掴むと、怒ったふりして引っ張ってきた。
全然痛くないから、加減してくれているのがわかる。

こんなじゃれ合いが、今のあたしにとって、どんなに心地よかったか、きっとレノは知らないだろう。



囚われの身

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