夢を見た。
正確には夢と言うよりも、あの日、シヴァを喚び出すことが出来た日に似ている。
少しだけ違うのは頭痛もなく、穏やかな空気に包まれていたこと。
いつもそうだったらいいのにと思ったけど、その言葉が口から出ることはなかった。
言ったところで変わらないだろうと、それだけは確信があったからだ。


ーーーなまえ。


優しく呼ばれる声は、やっぱり心地好くて、何処か懐かしい。
最初はシヴァの声かと思ったけど、どうやら違うらしい。
あれから何度か喚んでいる内にシヴァの声が聞こえるようになっていた。
彼女の声はどちらかと言えばクールな年上のお姉さんみたいな声。
一人称は「私」で、敬語で受け答えをしてくれる。
つい、お姉様と呼びたくなるような声だと言えば、シヴァにしては珍しい顔をしっけ。

シヴァと会話出来るようになったことは、ザックスには伝えたところで余計な心配をかけるだけだと思って、まだ言えてない。
でも勘が鋭いところがあるから、もしかしたら会話してることに気付かれているかもしれない。

会話出来るようになったことは、信頼度?絆?が上がったのかもと、あまり深く考えないようにしてる。
もし、そういうのがあるならだけど、協力して貰っている以上、会話が出来た方がいいかなって、そんなことを漠然と思う。
仲良くなれるなら、その方が嬉しい。

あたしがぼんやりと他のことを考えてるのを察してか、声の主の笑い声が聞こえた。
そういえば、今は彼女?があたしの名前を呼んだ夢の中だったんだっけ。


ーーー大切な人、護るばかりじゃダメだよ。


「ダメなの?」


ーーー使命とか、そういうの抜きにして、たまには自分の気持ちに正直になっていいんだよ。


「…使命とか、そういうのはわからないけど…いつも自分の気持ち、大切にしてるよ」


ーーー護りたい?


「うん…護りたい」


ーーーなまえが傷付くの、嫌だと思うよ。


「あたしも嫌だよ」


再び笑う声。
きっと、この会話が平行線のまま続くことに気付いたんだと思う。
だからあたしも釣られて笑ってしまう。


「そう言えば、どうして会いに来てくれたの?」


ーーーえ?


「ただ会いに来てくれたってワケじゃないよね?」


あたしの言葉に一呼吸置いて、再びクスクスと笑う声の主。
言われてなくてもわかるよ。
だって、アナタが来てくれる時はあたしに助言するか、シヴァの喚び方を教えてくれた時だから。
もうこれ以上はないだろうから、また何か危険でも迫っているのかもしれない。

どうにかして、クラウドを助けたい。
ザックスを"エアリス"に会わせてあげたい。
それが、あたしの正直な気持ち。


ーーーその気持ち、だけじゃないよね?


「…え?」


ーーー大丈夫。なまえの大好きな人は、きっとなまえとまた会えるから。


「うん…信じてる」


ーーー"運命"に翻弄されても、あの時は離れちゃダメだよ。


「…あの時?」


ーーーそう、あの時。でもね、今度は…離れたとしても、少しの間だけ。


「今度?」


ーーーきっとあの人は怒るけど、犠牲じゃない。


「そっか。なら、大丈夫だね」


ーーー怖くないの?


「怖くないよ。だって犠牲じゃないんでしょ?ちゃんと会えるんだよね?」


ーーー会えるよ。


「それなら大丈夫。あたしでも護れるなら…ザックスに怒られたとしても、大丈夫って説得する」


ーーーあとで知ったら、彼も怒るよ?


「彼…クラウドのこと?」


ーーーそう。彼のこと。


「昔から、クラウドはずっと優しいから」


そう言うと、声の主が曖昧に笑う。
「そろそろ、お目覚めの時間かな?」と言われ、段々と光が強くなる。
きっと朝が近い。この夢から覚める時間がきたみたいだった。

いつもみたいにみえたワケじゃないけど、目覚めたときに、なんてザックスに説明しよう。
あたしの話は信じてくれるけど、無茶すると怒る。
もちろん頼りにはしてくれているし、戦闘において信頼はされているけど、ザックスにとっては危なかっかしいみたい。
そりゃ、ザックスたちみたいに戦闘訓練は積んでないし、戦い方を知ってるワケじゃないから、仕方ないけど。



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いつものように、軽く朝食を済ませて歩き出す。
夢の中でのことは、まだ話せていない。
みせてくれたと言うよりも忠告で、問題の瞬間がいつなのかわかっていない。
「今度」と言われたけど、それがずっと先のことかもしれないし、数時間後のことなのかもしれなくて、それもあって、言えずにいる。

願わくば、こんな穏やかな時間が少しでも長く続いて欲しい。
それが叶わぬことくらいは知っているけど、願わずにはいられない。

「なまえ、どうかしたか?」
「ううん、なんでもない」

あたしが笑うと、ザックスも安心したように笑う。
本当に、こんな空気が心地よい。

いつか、ザックスとクラウドと、まだ会ったことのないエアリスと一緒に旅に出られたら。
ううん。旅とかじゃなくてもいい。
ザックスがミッドガルに着いたらやるって言ってた「なんでも屋」を手伝ったりしてもいいのかも。

そんなバカみたいな現実逃避を、何回も繰り返して、やっぱり、現実ってままならないんだって思い知らされて。
その度に、どうかアナタを護らせて欲しいと、そればかり願うんだ。

「おい、クラスファースト。ザックス・フェアだな、と」
「げ。タークス」
「そっちは"保護対象"か?」
「…」
「睨むなよ。なぁ、お嬢さん。名前なんてーの?」

現実はとても残酷だ。
だからと言って、諦めるなんて出来ない。
"彼女"が言ってた「今度」は、きっと今だろう。

突然現れた赤い髪の彼は、長い髪を結び、シャツを着崩していた。
黒いスーツはタークスの証らしく、それが制服のようだった。

あたしは一歩前に出て、目の前の赤い髪の彼を見据える。
へらっと笑い、軟派な言葉を口にし、まるで隙だらけに見えるのに、きっと、あたしの攻撃なんて余裕で躱してしまうだろう。
ロッドを肩でぽんぽんとリズムよく叩いて、こちらの神経を逆撫でするように、でも、攻撃すればこちらが被害を受けるだろう。
だから、タークスはエリート部隊だって言われているんだろうと、理解した。

「お兄さん。あたしが神羅についていけば、ザックスたちのこと見逃すって約束してくれる?」
「おいっ、なまえ!」
「へぇ。なまえって言うんだな」

そう言って笑った彼は「俺はレノって言うんだ。よろしくな、と」と、なんだか場違いな笑顔で言うから、少し気が抜けてしまう。
そんなあたしの腕を引いて、ザックスはあたしをレノさんから庇うように背に隠す。
まぁ、わかってはいたけど、やっぱり怒るよね。

「なまえ、お前はまた…!」
「違うの。そうじゃなくて、」
「そうじゃねェんなら、なんであんなこと言った!」
「…違うの。ザックス。犠牲じゃなくて、少し離れるだけ。それで護れるって"彼女"が言ったの!」
「でも、今お前が連れて行かれるのが"犠牲"以外に何があるんだよ?!クラウドだって、同じこと言うぞ!」

泣きそうに揺れる魔晄の瞳。
本気で心配してくれていることは、痛いほどにわかる。
あたしだって、ザックスが同じことしたら同じように怒るもん。
でも、いざ自分がする立場になったら、逆のことを押し通そうとするから不思議だ。
ザックスだって、あたしやクラウドを護るためなら無茶をする、一緒なんだ。

「未来は変えられる。でも、あたしがみた未来はみんな無事だった。今回だって、犠牲じゃないって…そんな未来だったの」
「神羅に行けば、お前は一生籠の鳥だ!本当にみたのか?」
「みたよ」
「じゃあ、この後のこと説明してみろ。俺を納得させろ」

実際にみたワケじゃないと、ザックスは確信しているのかこのままじゃずっと平行線だった。
犠牲じゃないって言われたけど、本当に実験体にはならないのかまでは聞いてない。
だから、この先のことはやっぱり、少しだけ怖い。

「…ザックス、ごめんね」
「何がごめんなんだよ?まさか、お前…っ!」
「スリプル!」

咄嗟にバスターソードの切っ先を握りしめて、眠らないようにしたザックスだったけど、少し強めにかけたスリプルはあっという間にザックスの意識を奪う。
意識を手放す直前にザックスは、あたしを睨みつけて「馬鹿野郎」とつぶやいた。

本当にそう思う。
怖くないなんて強がって、離れたくないのに大丈夫だって言って、本当の気持ちに蓋をする。
そんなことばかり上手くなって、いつしか本心を口にするやり方を忘れてしまっていた。
可愛くないことなんて、自覚してるよ。
でも、もう「大丈夫」を言い慣れてしまったあたしは、どうやって本心を伝えればいいかわからない。

「…口にしたら…怖くないなんて、ウソ。本当はザックスとクラウドと離れたくないよ」

そうつぶやいてから、ザックスの左手に出来た切り傷をケアルで癒す。
あたしのスリプルから逃れようとして負った傷は深めに出来ていたが、魔力は上がったので一瞬で治すことが出来た。

傷が完全に消えたことを確認して、目の前にいる彼ーーーレノさんに視線を向ける。
任務に忠実かもしれないけど、ここまで待っていてくれた彼は信頼してもいい。
きっと取引にだって応じてくれる、そんな予感がした。

「…レノさん。取引、応じてくれますよね?」
「そうだな。お前が俺の条件に応じてくれるならな」
「2人が助かるなら、ある程度の条件には応じますよ」

その言葉に楽しそうに笑ったレノさんは、その条件を口にした。
でもそれは、条件でもなんでもなかった。

「レノって呼んでくれよ。それで充分だぞ、と」



その瞬間

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