ぐにゃりと世界が歪みをみせた世界は、酷く、歪だった。
床も、壁も、天井も全てが混ざり合ったその世界。
頭の奥からズキスギが痛みが走り渦巻く。目が熱い。左目が特に、異様に、熱い。
「う、…ぁ…」
吐き気が喉まで押し寄せる、そんな気さえした。
「…っ、あ…」
だが、押さえ込もうとした痛みは静かにタイムリミットを引き寄せる。
今までの痛みは何だったのかと思わせるその痛みが、完全に無くなる。
ゆっくりと目を開いてみた雪詠は酷く混乱した。
 
「ここ、どこ…?」
薄暗く錆れた黒曜ランド。
コンクリート詰めの床は同じ、ひんやりとした空気だって違う。それでももっとも違うものがそこにあった。
「…臭い?」
まるで薬品が混ざり合った臭い。理科の実験室に、似た臭い。
薬品の臭いの中にはまた別のものが混ざり込み合ったような…
「っ、」
薬品の中の、鉄の、臭い。
「やめて!!」
その時、後ろから聞こえたダレかの叫び声。
駄目だと、
うち自信が身体を震わせる。
駄目だと、
振り向いたら、いけないと
「はなせ!!」
「たすけ、たすけてぇっ」
それでもゆっくりと振り返る。その中に好奇心と恐怖が混ざり合う。
「わたしがいくから…!そいつはっ」
嘘だ嘘だ嘘だ
今まで靄がかっていたように頭の隅の記憶が晴れて行く。
嘘だ、嘘だ。だって"向こう"と"こっち"は違う世界じゃないか!
「いっちゃ、だめっ!」
「すぐ、もどってくるよ」
駄目
手を伸ばしても幻覚に触れることは出来ない。
虚しく通り抜けた空間を雪詠は呆然を見つめていた。
 
 
能力(スキル)
(それは誰の記憶か)

 
- 60/67 -

|
 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -