ぐにゃりと世界が歪みをみせた世界は、酷く、歪だった。 床も、壁も、天井も全てが混ざり合ったその世界。 頭の奥からズキスギが痛みが走り渦巻く。目が熱い。左目が特に、異様に、熱い。 「う、…ぁ…」 吐き気が喉まで押し寄せる、そんな気さえした。 「…っ、あ…」 だが、押さえ込もうとした痛みは静かにタイムリミットを引き寄せる。 今までの痛みは何だったのかと思わせるその痛みが、完全に無くなる。 ゆっくりと目を開いてみた雪詠は酷く混乱した。 「ここ、どこ…?」 薄暗く錆れた黒曜ランド。 コンクリート詰めの床は同じ、ひんやりとした空気だって違う。それでももっとも違うものがそこにあった。 「…臭い?」 まるで薬品が混ざり合った臭い。理科の実験室に、似た臭い。 薬品の臭いの中にはまた別のものが混ざり込み合ったような… 「っ、」 薬品の中の、鉄の、臭い。 「やめて!!」 その時、後ろから聞こえたダレかの叫び声。 駄目だと、 うち自信が身体を震わせる。 駄目だと、 振り向いたら、いけないと 「はなせ!!」 「たすけ、たすけてぇっ」 それでもゆっくりと振り返る。その中に好奇心と恐怖が混ざり合う。 「わたしがいくから…!そいつはっ」 嘘だ嘘だ嘘だ 今まで靄がかっていたように頭の隅の記憶が晴れて行く。 嘘だ、嘘だ。だって"向こう"と"こっち"は違う世界じゃないか! 「いっちゃ、だめっ!」 「すぐ、もどってくるよ」 駄目 手を伸ばしても幻覚に触れることは出来ない。 虚しく通り抜けた空間を雪詠は呆然を見つめていた。 能力(スキル) (それは誰の記憶か) ←|→ |