「カンゲーすんよ、山本武」
ギラギラと目を光らせた影は言う。その影はゆっくりと身体を真っ直ぐに立ち上げた。
「柿ピー寝たままでさー命令ねーしやることねーし超ヒマだったの。そこへわざわざオレのエモノがいらっしゃったんだもんな。超ハッピー」
皆が目を丸くなる。露になった姿は自分らの背丈に似た、制服を着た男だった。
「黒曜の制服!!」
「上の人達はお友達〜?首を洗って待っててねーん。順番に殺ったげるから」
笑みを浮かべてツナ達に悪びれなくそう言った男にツナは顔を青くする。そんなツナも露知らず、山本は大口を開けて笑い声を漏らした。
「おまえ見かけによらず器用なんだな。さっきの死んだ犬の人形すげーリアルだったぜ!」
山本の言葉に雪詠は思わず顔を引き攣らせた。
「(天然を通り越して馬鹿すぎる…)」
男もあまりにも度を越した発言に少々呆れているようだった。
「よーい…ドン!」
踏み出した男の足は速かった。山本がすぐさま持ち前の運動神経で男を避ける。
男は高く飛び上がると歯に何かを取り付けた。壁を蹴り上げた男は回転をしながらも更に高く飛び上がる。
人間技じゃねぇと声を上げる獄寺の言葉は偽りなどない。本当に男は人間なのか、と問いたくなるほどの動きだったのだ。
天井を蹴った男は山本へと飛び込む。
「いったらっきま―――す!!」
山本は肩にかけていたバットを素早く取り出し、男からの攻撃をガードする。なんとか攻撃は避けられた。だが、刀へと姿を変えた山本のバットの刃は壁に突き刺さる。
山本の手には柄が残っている。つまり、男の攻撃―――歯によって刀は折れたのだ。
「次はノドをえぐるびょん」
男の口から零れ落ちる刃毀れ(はこぼれ)に上に残っていた3人は悲鳴を上げる。
しかしそれとは正反対に山本は何かを決意したように笑みを浮かべた。
「やり合う前に一つ聞いていーか」
「んあ?」
「おまえナリ変わってねーか?」
きょとんとした顔で、いつ変装した?と尋ねる山本に思わずずっこけそうになった男はまーいーやと呟く。
「ゲーム機ってカセットさしかえるといろんなゲームできるっしょ?それとおんなじ」
男の手には数種類の歯が並べられていた。
「カートリッジをとりかえると、いろんな動物の能力が発動するわけよ」
歯を取り付けた男の姿はもはや人間とは言えなかった。
「あれは霊長目、オランウータン科ニシローランドゴリラね」
ありえねー!!と声を上げるツナの隣で雪詠がなんでそんなに詳しいんだよとビアンキにツッコンだ。
すげーと呑気に感心していた山本を男は壁へと投げつけた。刀が無い山本はただ攻撃から避けることしかできない。四方八方から飛び出して来る男に、山本は完全に押されていた。
「逃げてばっかじゃん。もしかしてオレ相手に持久戦にもちこもうとしてんの?」
男の言葉に山本は頬を掻いた。
山本は怪我をすることを恐れていた。その理由は秋にある野球の大会だった。山本にとって野球は譲れない大切なものだというのに、ここで怪我をしてしまえば大会に出られなくなってしまう可能性だってあるのだ。
心配気に山本を見つめるツナを見たリボーンはツナを突き落とした。
「ちょっ、沢田君大丈夫!?」
リボーンの予想外の行動に雪詠は声を上げる。
「よーし、山元逃げるしさきにウサギを狩っとくかな〜」
男の言葉に山本は目を丸くする。ツナに襲い掛かろうとした男に山本は足元に転がっていた石を投げつけた。
「おまえの相手はオレだろ?
こいよ、こいつぶちあててゲームセットだ。」
男は笑みを浮かべ、チーターの歯を差し込む山本へと襲い掛かる。石を投げるものの虚しくそれは避けられてしまう。男はそのまま山本の腕へと噛み付いた。
山本は、笑みを浮かべていた。
折れた刀の柄で殴りつけられた男はその場に倒れる。
戦いを終わらせた山本にツナは慌てて駆け寄り、頭を下げた。そんなツナに山本は笑みを浮かべる。
「ダチより野球を大事にするなんて、お前と屋上ダイヴする前までだぜ。」
「や…山本…」

無事上へと引き上げられた2人と上で見守っていたメンバーにリボーンから言われたのは今回の事件による情報と写真だった。
真ん中が六道骸だと告げられ皆が顔を認識する中、雪詠はただ1人、その姿に違和感を覚えていた。
 
 
山本武VS.城島犬
(全てが、繋がり始めた)

 
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