あの男が気になるか、気にならないかでいえば気になる。
なにをしようとしたのか、あの表情の意味はなにか、…最後に言った言葉の意味は?
そんな疑問がふつふつと沸き上がるがはっきり言って今はそれどころじゃなかった。
目が覚めたら先ほどの場所でも、見覚えのあるところでもない。なんの、冗談だ。いや、冗談ならどれほど良かったことか。
その場所は見覚えがなくて、知っている場所なのだ。いや、この表現はおかしい。
この場所は、前視た夢の場所なのだ。

薄暗い空間。牢屋のように仕切り立てられた鉄棒。微かに香る、薬品の匂い。その薬品の中にときおり鉄のような匂いがする。その匂いは、決して良いものではない。良いものであるはずが、なかった。
啜り泣くような声が聞こえる。ふと見渡せば多数の子ども達がそこにおり、涙と共に嗚咽まで漏らしていた。
あまりにも華奢な体つきで、幼い顔立ち。ここが、良い場所であって堪るものか。
「そこの餓鬼、来い!!」
「やぁ…っ!!」
その部屋に木霊するように聞こえた罵倒。びくり、と体が跳ねた子ども達を横目に悠は声の元へと駆け出した。
「早く来やがれ!!」
「やめてぇ!!」
あまりにも、悲痛な叫び声だった。声から分かるほどの怯えぐあい。それほどまでに声は震えていた。
「はなしてっ!!」
舌ったらずの声が上がる。幼い少女の華奢な腕に掴みかかった男にもう1人の少女はその腕を必死に離そうとしていた。
「雪詠をはなしてよぉッ!!」

ぴたり、と
ぴきり、と時間が止まった気がした。
今、なんと言った?今、あの少女は、なんと呼んだ?

「悠…ッ!!」
一瞬にして、全てが繋がった気がした。
あれは、あの少女らは自分達だったのだ。
「わたしが、いくからっ」
ああ、なんて馬鹿な子どもだったのだろう、俺は。
昔からも、俺は雪詠の側に、いたのか。守ろうと、していたのか。
その瞬間空間が歪む。視界が眩むような感覚のあと、世界は戻った。さっきまでとは、また違った場所。
手術室のような、ライトに台、ナイフ、鋏、きりがない。
だがそこは手術室などではない。実験室だ。

クラッシュバックするあの悪夢。
「――!!」
声にならない叫びが上がった。苦しい、辛い、痛い、助けて。そんな感情が、入り雑じった叫びだった。いや、悲痛な叫びと言った方が分かる。
徐々に徐々にと沸き上がる、記憶。
ああ、そうか。

悠は静かに右目に触れた。なんだ、そう言うことだったのか。
全てが、繋がる。
俺は、モルモットだったのか。
 
 
繋がる記憶
(全てが、繋がり始めた)

 
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