「速やかに帰るように」
続く先生の挨拶によって解放された教室。
特に何をするわけではなくぼうっとしていた雪詠は自分の名を呼ばれ、ハッとした。
「一緒に帰ろーぜ」
「…うん。そうだね。」
いつも一緒帰っている悠も、沢田君も今日は学校に来ていない。沢田君についてはさっき見かけたし、朝は了平さんのお見舞いだろうから別に気にしているわけではない。
でも、今度了平さんにお見舞いに行ったほうがいいかな、なんて考えながらも教科書の詰め込まれた鞄を肩に背負った。
獄寺君は沢田君がいないことと携帯の電池が切れたイラつきからか先に帰宅してしまったし、授業途中で沢田君は来たもののなぜかすぐに出て行ってしまった。だから山本君の誘いは並盛の生徒が襲われていると話を聞く中、1人で帰るより格段に心強い。
そーいやなんで今日は学校すぐ終わったんだ?ツナたちもきてなかったしよ、と疑問を投げ掛けられツナから聞いたことを同じように話す。やっぱり知らない人は知らないよね。
そんな物騒なことあったのかと目を見開く山本君に頷いたとき、近くで見たぁ?と甲高い声が聞こえた。
「さっきの子たち、並中生と黒曜中の子だよね?」
「あんなところで喧嘩しないでよねって感じー」
その言葉に山本君とうちは目を見合せ、まさかと足を懸命に進める。喧嘩、と聞いて思い浮かべたのは1人しかいない。
うちより数秒先に足を大きく動かした山本にどうにか追いつくようにと必死に足を動かす。さすがと言うべきか山本は足が早い。さすが野球部エースだ。
商店街を突っ走り、近くで聞こえた地響きの元の前で足を止めればそこには路上に倒れ込んだ獄寺君と呆然と立ち尽くした沢田君がいた。
沢田君の目の前には知らない男。恐らくあれが黒曜生だ。
男が武器と思われるヨーヨーを沢田君を目掛けて飛ばす。それを見た山本はいち早く危険だと気付き沢田君目掛けて走り出した。
「すべりこみセーフってとこだな」
「山本ぉ!」
「沢田君大丈夫!?」
「榊さんも…!!」
目を潤ませて助かったとばかりに声を上げた沢田君に山本は良かったと笑みを浮かべる。
「学校半日で終わってさ。通りかかったら並中生がケンカしてるっつーだろ?獄寺かと思ってよ」
山本の言葉に沢田君がそーだと声を上げる。
「獄寺君が!!」
「ああ、わかってる…おだやかじゃねーな」
沢田君の言葉に一瞬にして変わる山本の雰囲気。
邪魔だとの吐き言葉と同時に黒曜生の男が何かを投げた。それに反応した山本が一瞬の手さばきで野球のバットをソレをガードする。
野球のバットだったはずのものはいつの間にか刀になっており、雪詠は目を見開かせる。

「そうか…おまえは並盛中学2-A出席番号15番、山本武…」
「だったら何だ」
男を力強く睨む山本の影に隠れるように雪詠が山本の後ろへと立つ。
男の後ろからは警察を呼ぶ声。警察に会ったらめんどうだと考えたのか男は流し目で雪詠を一瞥し足を引き摺りつつもその場を後にした。
(今、一瞬だけうちを見た…?)
ドクリ、と心臓が脈打つ。混乱した頭を冷やそうと男のあの目を振り払うかのように雪詠は頭を左右に振った。
「獄寺君大丈夫!?」
「あ、」
ツナの叫びでフと我に返る。そうだ、それより今は獄寺が、
「しっかりしろ!獄寺!?」
血まみれで倒れた獄寺の息は荒い。この状況の獄寺を救えるのは1人しかいない。
雪詠は地面に横たわる獄寺の右手を握りながらも山本を見た。
「シャマルのとこに行こ!」
 
 
脱獄囚
(彼女は忘れているのだ)

 
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