「雪詠ちゃんって確かツナ君の隣に住んでるんだったよね?」
「そうだけど、どうしたの?」
「実はお兄ちゃんがツナ君にこの本を渡せってしつこくて…。」
「…大変だね。」
「うん…でも私、今日予定があって…あの、良かったらこれ、ツナ君に渡してくれないかな?」
「え?う、うん。用事も特に無いし、別に構わないけど…。」
「本当!?ありがとう!」
じゃあ、ごめんけどよろしくね!と数冊の本を渡しバイバイと手を振る京子に雪詠は手を振り返した。
 悠があっさりと男装がバレてしまったあと、京子とはすっかり話す時間も多くなった。最初は戸惑ったものの、今では仲良くなり、彼女の親友である花とも雪詠はよく話している。この世界に来て悠以外の女の子と話す時間があまりなかった雪詠は嬉しく思っていた。
京子に渡された数冊の本を両手にいつもの住宅街を通り、すっかりと来慣れてしまった沢田家の家を雪詠は見上げる。
(最初は関わるつもりなんて、サラサラなかったのにな。)
玄関のドアゆっくりと開き、ツナの名を呼ぼうとした雪詠は思わず言葉を飲み込んだ。
玄関前にはシャツの下から見える大量のドクローマークを隠すように両腕を組み、涙目で体操座りをしているツナ。
「…何してるの?」
雪詠は思わず尋ねた。
「榊さん!?」
「雪詠!?」
奥から顔を出し慌てて雪詠の元へ歩み寄る悠に雪詠は実はと言葉を繋げる。
「京子ちゃんのお兄さんから沢田君に贈り物が、」
「…ボクシングの本だな。」
「…うん、そうみたい。」
「悠ちゅわーん」
「キモイ!!」
どこからともなく現れた人影に素早く肘打ちを喰らわした悠に雪詠は目を見開く。
「え!え!?なに!?」
「いいからお前は早くここを、」
「君かわいいねーチューしてあげる」
「え、」
悠の言葉を遮って来たのは白衣を着た男だった。
後退さる雪詠を見た悠が男の白衣を引っ張る。
「テメッ、」
「死ぬ気で雪詠を守る――!!!」
その時、悠の少し後ろから聞こえたビリリ、とシャツを破り立ち上がったツナに雪詠は悲鳴を上げるのだった。
 
 
Dr.シャマル
(服着て服!!)

 
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