――悠、分かったことがある。
そう言ったのは昨日の学校見学の帰りだった。
雪詠はそこを知っていた。
ここは、この世界は、漫画の世界だ。
それを話したときには悠は僅かに目を見開いていたがあの赤ん坊を見た後だからなのか渋々も納得してくれた。
現実離れしているが自分等はまさに、今を現実離れした中で過ごしているのだ。納得しなければやっていけないといってもおかしくは無かった。
そして今日は転入の日。
2人は担任となる人物の後ろを歩き、ここがお前らのクラスだと言われて雪詠は思わず顔を引き攣らせた。
1-A。
彼等と関わることになるらしい。
教室のドアを開き、転入生が来たぞとの先生の声でざわめきだす教室内の光景を見ながらも悠は俺が先に行くなと雪詠に小さく微笑んだ。
雪詠の前を歩く悠の後姿を雪詠は慌てて追う。バンバンと黒板を鳴らしながらも自分等の名前が書かれ、2人は小さく頭を下げた。
「氷室悠です、どうぞよろしく。」
「榊雪詠です。よろしくお願いします。」
何でもない顔でサラリと挨拶をする悠に続いて雪詠は慌てて挨拶をした。
その瞬間に盛り上がる教室内は王道と言うべきか、
先生の指示に従って並べられた2つの空き机に静かに座る2人は未だ群がる視線に、居心地が悪く眉を顰める。
休み時間を表すチャイムと、先生の号令により解放された生徒らは一斉に2人へと群がった。物珍しいというような顔をして話しかけてくる生徒らに、悠はダルそうな表情ながらも淡々と質問に答えていく。
だが、雪詠はと言えば緊張するやらめんどくさいやらで縮こまっていた。
「氷室君、良かったら私達が今日学校案内してあげるよ!」
「ね!榊さんも良かったら」
「いや、いい。俺等は昨日、校内見学来てたから場所は大体把握した。」
「そうなの?」
「2人とも仲良いね?苗字は違うから…兄妹ではない…よね?」
「家の都合で2人だけでここに来ることになっただけだ。」
「じゃあ一緒に暮らしてるの?」
「…まあ。」
「そうなんだー」
無表情に返していく悠に女子達は悠に目線を奪われていた。
中学生なのにこんなに誠実そうで、寡黙な男子はいたかと思わず考えてしまう女子達は本当は悠が女なんて知るはずもなくうっとりする。元々大人びた雰囲気を持つからなのか悠の存在に女子達は今までに接したことないタイプの異性(実際は同姓だが)に戸惑いながらも少なからずも惹かれていた。
中休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り、残念そうな顔をしながらもその場を去って行く。そんな女子達に雪詠は思わず小さく溜め息を吐くのだった。
(めんどくさいことになりそうだなあ)
 
 
並盛中学校
(始まる新生活)

 
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