ピンポーン、と軽快な音を家に響かせるチャイムの音。 その音に思わず顔を見合わせた雪詠と悠は戸惑いの色を見せた。だが、もしかしたらこの地域を知るチャンスかもしれない。 悠が行って来る、と言葉を残し玄関へと向かう姿に、雪詠は少し不安を抱きながらもリビングにあるソファーに座り、耳を澄ませた。 聞こえた声は明らかに女性のもので、高すぎない声で穏やかな声に思わず胸を撫で下ろす。 しかし、――そこで違和感。 (この声、どこかで聞いたこと…ある?) ある、とはキッパリと言い切れないもののなんとなく懐かしく思える声だった。雪詠はなんだっけと首を傾げる。 話が終わったのか悠が片手に見慣れぬファイルを持ち廊下から顔を出した。 どうだった?と尋ねれば少し聞いた、と言いながらも肩を落としていた。どうやら本人にはもう少し掴めると思っていたのだろう。 「で、誰だったの?」 「お隣さんの沢田さん、だってさ。」 「沢田奈々?」 その名前に雪詠はさらに心に何かが引っかかるような違和感を覚えていた。 「息子さんが1人と居候が数人いるらしい。」 「居候?…なんだか珍しいね。」 「だよな。俺もそう思った。えと、それでな。ここは"並盛"っていう地域らしい。」 「並盛?」 また、――違和感。 「ここから一番近い学校教えてもらったときに言葉濁して聞いた。それに息子さんがそこに通ってるらしい…んだけど」 「…どうしたの?」 悠が会話を切り、雪詠は不思議そうな表情を浮かべる。そんな雪詠に悠は言いにくそうにあのさと切り出した。 「俺ら、学校って行くの?」 「え?」 学校?と雪詠が目を丸くした。 それはそうだろう。突然こんなわけの分からない場所にいたと思ったら次は学校に行く?それより早く元の場所に帰ることが先決じゃないのか? 悠は雪詠の考えを読み取ったのかお隣さんに頼まれたんだよと溜め息混じりに言う 「年齢は俺らと同じ。つまり同級生。で、転入してきたんでしょ?よければ私の息子と仲良くしてやってくれないか?だってさ。」 「そんなこと言われても、」 だってうちらは、 雪詠は言いかけていた言葉を飲み込んだ。 知らない場所。そんな場所で子ども、しかもただの中学1年生が何をできると言うのだろうか? でも、と雪詠は思う。 通えば、この場所について分かるかもしれない。いや、分かるはずだ。調べて帰る事だって可能なはずだ。 なら、行くべき? 「どうする?」 悠の言葉に言葉を飲み込んでいた雪詠は決心した顔で悠を見た。 「行く。で、早く帰ろう。」 「…了解」 ふと笑った悠が後は任せろとリビングを去る。 2人は最後の最後まで悪足掻きをしてやると言わんばかりに、その目に決意をギラギラと灯した。 お隣さん (未だ真実に気付かず) →2章 ←|→ |