「…ん……?」
「お、起きたか。…大丈夫か?」
「……悠?」
悠の言葉に雪詠は頷きながらもゆっくりと体を起こした。
僅かにガンガンと響く不思議な感覚に見舞われながらも、ゆっくりと立ち上がろうとすれば心配そうにこちらを見る悠。
「大丈夫だって」
そう言って雪詠が苦笑すれば悠は渋々ながらも頷いた。
「ここって、どこ…なの?」
「あぁ…それが、」
複雑そうな表情をする悠に雪詠はどうしたの?、と首を傾げた。
「…ちょっと良いか?」
「う、うん。」
悠に手を引かれ、連れて行かれた先は外だった。
どこに行くんだろ、と思っていれば玄関前で足を止められ、悠は指を差す。指先の方向には名前の表札があった、が
「え、うっ、嘘」
そこに書かれていたのは"氷室"と"榊"という苗字で、雪詠は茫然とした。
――こんなところ、知らない、のに。
ここは自分らの家でもなければこんな家を見たこともない。周囲を見渡してみたものの、見覚えのない風景。
なのに、この家の表札には自分達の苗字が書かれている。混乱している雪詠に悠は家の中もだよ、と呟いた。
「2階に、俺らのネームプレートがぶら下がった部屋があったんだ。」
誰が、こんなことをしたと言うのだろうか。
目の前の事実に戸惑ううちに安心させようとしたのか、悠が雪詠の頭を優しく撫でる。いつもなら冗談交じりに払うその手を、どうしても払うことができなかった。
「とりあえず、仕方ねえし…ここにいるか」
「…うん」
雪詠の言葉を聞いた悠が手を引いて先を歩く。
玄関を開けたその瞬間から――2人の物語は動き始めたことを、2人はまだ知らない。

ようこそ
(非・日常へ)

 
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