6色







遠い背中








最近柊の様子がおかしい。この前テニスしに行って以来、いやおかしくなったのは飲み物を買って帰ってからじゃ。
ずっと上の空でぼーっとしちょる。




柳生となんかあったんか…?おかしくなったのもふたりで帰ってきた後じゃし。




「らしくないのう…」




寝転がり、空を見上げる。
ついでに今は授業中じゃが受ける気もせんから屋上でさぼっちょる。
自然に手が携帯にのびる。






「ん?」




ポケットの中で携帯のバイブが鳴る。今は授業中のはずなのに誰だろう。




休み時間になり、携帯を見れば仁王からだった。複雑な気持ちのまま、メールを開く。




「柊、今日の放課後空いちょる?学校も近いし、はよ部活も終わるから一緒に帰らんか」




迷ったけど、断る理由もないのでわかったと返信する。






***




あー、きちゃった…。
仁王が学校まで来ると行ってくれたけど、思ったより早く学校が終わったので仁王を驚かせようと立海まで来た。




校門の前で仁王が来るのを待つ。制服も違うし、目立ってしまう。周りからは変な目で見られたけど、気にしないようした。






「柳生、ちょっといいか」


「ええ、少しなら。でなんでしょう?」


「柊のことじゃ。お前さんなんか隠しちょるやろ」


「実は、咲夜さんから口止めされてたのですが……」








「雅治にでも会いにきたわけ?」




目の前にはこの前の女の子。心の中に嫌なものが広がっていく。




「………」


「あれ、図星とか?あんたみたいなのが相手にされるわけないじゃん」


「雅治が迷惑がってんのわかんないわけー、てか人振り回すの止めたほうがいいんじゃん」




声をあげて笑う目の前の少女。ピタリと声がやんだかと思うと




「あたし雅治のこと好きなんだぁ、だから手ぇださないでよ」




思考回路が停止する。なんであたしがこんなめに…。けど、なんでこんなにイタイんだろう




校内から仁王が走ってくるのが見える。周りはたくさんの女の子に囲まれている。みんなあたしより可愛いくて、美人ばっかり




何も聞きたくなくて、その場にいたくなくて、背を向けて走り出した。




柳生から全部聞いた。
俺に何を言おうとそれはええ。だが、柊にしたことは許せん。




柊に会いたい。なんでかわからんけど…。
走れば女子が纏わり付いてくる。イライラする。掻き分けて進んで行くと校内前に柊とあいつの姿が見えた。




嫌な予感がした。柊は俺を見ると逃げるように走り出した。




「どうしたの、雅治ぅ?そんなに慌てちゃってぇ」


「何をした…」


「なんのことー」


「柊に何したか聞いとるんじゃ!俺に何しようが勝手じゃ。けど、あいつに何かしたら許さんぜよ」


「っ…あんな子のどこがいいのよ!」




言い返す気にもならん。睨みつけると俺は遠くなった柊の後を追った。




「柊…」








思わず走っちゃった。仁王が女の子たちに囲まれてるとき、違う人のように感じた。




なんか今までのことが夢みたい。一緒に買い物して、ご飯作って食べて、映画みたり




「ハァハァ…痛い……」




走り疲れた身体が、心が痛い。手を伸ばせば届きそうなのに届かない。今は仁王の背中が遠く感じる。




「柊!」




聞きたかった声。後ろから仁王の声が聞こえる。振り返ることもなく、あたしはまた走り出した。けど、足の速さで勝てるわけなく仁王に腕を引っ張られ、立ち止まる。




「柊、すまん。俺のことなのに迷惑かけてしもうた」


「気にしてないから平気…」




どうしよう、視界がぼやけてよく見えないや




「嘘つくんじゃなか」


「ついてない。ただ調子が悪かっただけだよ」


「なら、どうしてこの間から俺を避けるんじゃ!さっきだってどうして逃げた!!」


「それは…」




俯き唇を噛み締める。心がズキズキと痛む。耳の奥であの子に言われた言葉がこだまする。すると、急に仁王に抱きしめられた。




「嫌なんじゃよ…。柊と今みたいなぎくしゃくした関係が続くんが」




さっきよりも強く抱きしめられる。




「…あたし、仁王と仲良くなってご飯食べたりして凄く楽しかった」


「けど、どこかであたしが仁王と一緒にいていいのかなって思ってた。言われて、考え出したら急に恐くなったの…」




涙と声が震えるのをぐっと我慢して話す。今にも心臓が張り裂けてしまいそう




「仁王が…遠い存在になっちゃうんじゃないかって」




俺の制服をにぎりしめ、震える声で話す柊。馬鹿じゃな、こんなことにも気付いてやれんかったなんて




「俺はどこにもいかん、ずっとここにいる。そんなことさせん」


「え、迷惑じゃ…」


「たく、なに言っちょる」




仁王が優しく微笑む。我慢してた涙が頬をつたって、コンクリートの地面に吸い込まれる。ただあたしは仁王に抱きしめられた腕の中で、泣き続けた。






「柊、気付いてやれんくてすまん」


「どうして謝るの」


「俺が柊を傷つけたようなもんじゃ」




うなだれる仁王の頭に手を伸ばす。




「確かにあたしがあの子にされたことは理不尽だよ。でも、それは仁王のせいじゃない」


「あたしだって真に受けて、仁王と距離おいて傷つけた。だから、これでおあいこ」


「はあ、柊には敵わんな」




柊が笑えば、自然と苛立っていた心も軽くなった。ん…そうか、あの違和感もこれも




「収穫ありじゃな」


「ふぇ?」


「なんでもなか。ほら、帰るぜよ」




暗くなりかけた道を柊の手をひいて歩きだす。




「機嫌いいね」


「んー、まあな」




好いとうよ、まだ言ってやらんけどな








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