「みなさーん、お茶入りましたよ」
「おう、ありがとな」
「それにしても一ヶ月絶たないうちにすっかり馴染んじまったな」
お茶と茶菓子を広間にいる幹部の人たちにだす。
今は会議中みたい。
「そんな照れるぅ。
おだててもなにもでませんよ」
「今のは褒めてたのか」
「もう父さんが娘にそんなこと言ってどうするの!」
「だ、誰が父さんだ!」
きゃー、と言ってぱたぱたと広間を出ていった。
「あははは、最高だね!
土方さんに向かって父さんって。僕もそう呼ぼうかな、父さん」
「総司、斬られたいのか」
眉間にしわをよせて睨みつける。
「おかげで屯所内も随分と明るくなりましたね」
「ほんと不思議な子だな、四季くんは」
あれからあたしは主に家事をしながら新選組にお世話になってた。
みんな本当よくしてくれる。初めこそ冷ややかな目で周りの隊士の人たちからも見られてたけど今は大分打ち解けてきた。
ことが起きたのはその日の午後だった。時がゆっくりと動き始めた瞬間だった。
屯所内が急に慌ただしくなる。
「沖田さん、どうしたんですか?」
「聡美ちゃんには関係ないから部屋で休んでて」
関係ない、か。
彼らからしたらあたしなんて別にいらないんだよね。
ちょっと傷ついたなー。
「沖田さん、無茶しないで下さいね」
きっとこの後に千鶴が来る。
ならみんなは羅刹と戦うはず。
どうなるかわかっていてもやっぱり心配だ。
「僕が負けるわけないでしょ。
じゃ、行くから」
「沖田さん、いってらっしゃい。あたし、待ってますから」
背中越しに手をひらひら振って、屯所から出ていった。
あたしは縁側に腰を降ろした。
なんとなく部屋に戻りたくなかった。
「なんの力にもなれない。
これからもっと大変なことが起こるのに……」
無力だ。この世界がどう動くかは今後の千鶴の行動次第だとしても、何かあったときあたしは何ができるのだろう。
せめてみんなの足手まといにはならないようにしたい。
「強くなりたい……」
呟いた言葉は、そのまま闇に吸い込まれていった。
10.06.06
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