筧くんの家は電車で20分程のところだった。 「なんかごめんね。急にこんなことに巻き込んじゃて」 「別に大丈夫だ、えっと…」 「自己紹介忘れてたね。あたしは桐野なずな」 「なずなのせいじゃないだろ」 「そうだね。まあ、一応社交辞令?」 「変わったやつ」 筧くんって、そんな風に笑えるんだ。 どうやら家は目の前にあるマンションらしい。鍵をあけると、どうぞ、とあたしを通してくれた。 「広っ!てか綺麗にしてるね。家族とか平気?」 「ああ、俺ひとり暮らしだから」 「え?!なにこの綺麗さ!ちょ、凄い!!」 あまり家に人を呼ばない。だからってこともあって急に家の中が明るくなった気がした。 くるくると表情を変えて部屋を見てまわる彼女に着いていく。 「なに笑ってんの?てか高1で一人暮らしって偉いね。あたしなんかより年下なのに、しっかりしてるー」 「え!なずな…さん、年上なんですか?!」 「かわいくも綺麗でもないけど、実年齢より下に見られたことないからショックでしたよー」 「す、すみません…」 同い年くらいと思ってたから、びっくりした。今までの話し方とかやばかったんじゃ… 「筧くん、しゃがんで」 わからないまま少し足を曲げて、目線を合わせる。 「気にしなくていいから。あたし、さっきまでの素の筧くんが好きだから」 そういうとしゃがんでくれた筧くんの頭をわしゃわしゃと撫でた。 柔らかく笑う彼女から目が離せなかった。 「やめて下さいっ!」 なんていいながらも今言われた言葉にどきどきしていた。 「敬語やだ。さっきみたいに普通にしてくれるまでやめない」 まったく、この人は! 「……―」 「ん?聞こえないぞー」 「なずなさん、やめて」 恥ずかしいそうにぽつりと呟いたあたしの名前。そんな筧くんが可愛いくて、少し虐めてしまった。 さっきまで普通に呼んでたのに。純粋だなー 「さん付けいらないんだけどな」 「いや、そこは譲れない。なずなさんも俺のこと好きに呼んでいいから」 「じゃあ、筧くんで」 年上に敬語使わねぇって悪い気がする。そんなこと言ったらまたやられそうだ。俺がけじめをつけたいから、名前だけはさん付け。これだけは、譲れない。 考えずに即答する。掴めない。大人っぽかったり、今みたいに子供みたいだったり。 パァアア! 『えっ?』 今度はクローゼットが光りだした。 ▼ |