「オイ、名字名前いるか?」
次の日の朝、自分の席で結局彼のノートをどうしようか悩んでいると突然自分の名前が呼ばれ顔をあげれば教室の入り口に昨日ぶつかった彼がいた。
「あっ」
私が立ち上がったことに彼は気づいたようでスッと廊下に戻った。私も彼のノートを持って廊下へ追った。
「これ、アンタのだろ?」
そう言って彼が差し出したのは私の古典のノート。
「あ、ありがとう…!私もこれ、」
「どーも」
「どうして、私のクラスわかったの?」
純粋な疑問を彼にぶつけると彼はヘッと笑って言った。
「どうしても何も、ノートに書いてんじゃねぇか」
「あっそっか…!!」
合点がいったような反応をした私を他所に目の前の彼は茶化すかのような声で言った。
「それよりサ、名前チャンは鬼道クンが好きなんだねェ」
!!??突然の事でパニクる私を見て彼は心底意地悪く笑う。何なのこの人性格悪っ…。でも悲しいかな、図星で顔が赤らむのが自分でもハッキリわかってしまった。彼はそんな私を見てニヤニヤしながら何かを言おうとしたけどそれを遮るように予鈴のチャイムが鳴った。
「チッ、おい、お前スマホ貸せ」
「へ、うん、はい」
よく分からないけれど言われた通りに貸すとカタカタと私のスマホを弄ってから彼は私にポイとスマホを投げ返した。慌ててキャッチする、セーフ。
「お前面白そうだし特別にRINE教えてやったんだよ。」
そう言って彼は去って行った。途中振り返って「あとお前の古典のノート便利そうだから連絡用」って。突然の出来事で何が何だかわからなかったけど、授業がもうすぐ始まることを思い出したので私も急いで教室へと急いだ。
しばらく経って冷静になってきた私は見ず知らずの人に恋愛事情もとい片思い事情がバレてしまったことに対する恥ずかしさに襲われていた。とても恥ずかしいんだけれども。あのニヤニヤした彼の顔が頭をよぎる。恥ずかしい、恥ずかしいけどなんだか少し悔しいような気もする。
「…ん?」
授業中にも関わらず小さな声が漏れた。が、私にとってそんなことは瑣末なことであった。それより、待ってくれ。
どうして鬼道くんが好きってあの人知ってたの!
入学して1ヶ月、私鬼道くんが好きなの!なんて誰にも話していないんだけど…。れ、冷静に考えよう。あの人は私の名前とクラスを古典のノートで知ったって言ってた。てことは私のことは全然知らないはずというのは正しい。つまり、どう考えても、古典のノートに何か書いてたに違いない。それしかない。身から出た錆というか墓穴掘ってるっていうか、結局原因私じゃないか…!!一番問題なのは何を書いてたか思い出せないことで。恥ずかしい事書いてたら私は蒸発してしまいたい。穴を掘って逃げたい。
ちょうど良いタイミングで授業が終わり休み時間。
古典のノートに何を書いてたか急いで確認しようとした時、
「名字」
話しかけられ顔を上げるとそこには鬼道君がいた。爆速で心臓がなる音がとにかく煩く頭に響いた。
「ど、どうしたの鬼道くん」
声、裏返りました。泣きたい。
「不動と、知り合いなのか?」
不動…不動…ああ、先ほどの彼か。
「いや、違うよ」
出来るだけ声が上擦らないように冷静に答える。まあでも心の臓は爆発するんじゃないかってくらい、跳ねてるよね、死にそうだよね。想い人が今発した声は全部私に、私だけに向けた言葉なんだとか恋する前に見たら卒倒しそうなくらい気持ち悪いだろう言葉が頭をぐるぐるする。そんな私をさておいて、鬼道くんには私の返事を聞いてそうかと少しフッと笑った。 笑った。
「アイツにとっては珍しいことだから、少しの好奇心で聞いたんだ。気にしないでくれ。」
そう言って鬼道くんは自分の席に戻って行った。対して私はこの出来事が本当に夢のようで古典のノートの確認もせずに放心状態であった。
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