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「あー、とうとう梅雨入りかぁ」

じゃじゃぶりの窓の外を見て友人が言う。確かに、もうそんな季節なのかもしれない。さっきの授業時間急に降ってきた雨に私はため息をついた。

「傘持ってきてないよ…」

「えっ」

「天気予報見るの完全に忘れてた…」

そもそも天気予報見るのを忘れて家を出てしまったことを雨を見てから気がついたのだ、毛頭頭になかった。友人は呆れた顔だ。

「じゃあ帰りどうすんの?これ多分次の授業じゃ止まないよ」

「なんとかなるなる、確証はないけど」

適当に答えてればチャイムが鳴って、友人は自分の席に戻ってった。適当に答えたけれども実際になんとかなるだろうとあんまりちゃんと考えてないのも事実だ。授業が終わる頃には止んでるか、降っていてももっと弱雨になるだろう。

チャイムが鳴り終わると鬼道くんが話しかけてきてくれた。とても幸せなことに最近は鬼道くんと話すことにそこまで緊張しなくなっていた。そのことに不動くんは面白くなさそうな顔をたまに見せるけど、知ったこっちゃないね。

「名字は徒歩通学なのか?」

「んーいやチャリつ……今日チャリパンクしてたから歩いてきたんだった…」

忘れてた事実を思い出し打ちひしがれていると授業が始まったので会話はそこで終わる。

ちらりと窓の外を見るも、雨はどうにも止みそうにない。これは濡れて帰るしかないのか。

図書室で勉強して帰ろうかとは思ったが、もし雨が止まなかった場合、いつもより暗い雨の道を一人で帰るハメになる。雨が止んだとしてももいつもより暗い。しかもいつもはチャリなのに徒歩で時間がかかる。さすがに無理だと思う。授業終わったら帰る。

とすると、濡れて帰るのは一向に構わないのだが(構わないわけではないが)、鞄の中の教科書類が濡れるのは嫌だ。

でも帰る手段は雨に濡れる以外に考えつかない。共働きの親に迎えに来てくれなんて言えない、仕事中だ。濡れて帰るか、そう断念しつつ聞く授業はいつもよりも幾分退屈に思えた。


退屈ながらも時間は意外とあっけなくすぎるようで、チャイムが鳴り授業も終わった。雨の音が始業の時よりも一層強い。絶望だ。

「授業前の会話が聞こえていたのだが、この雨で帰れるか?」

「ん〜…へへへ」

鬼道くんが優しすぎて辛い。好き。
質問に素直に帰れませんって言えず苦笑いをすると、鬼道くんが少し考え込んだ顔をした後、

「折りたたみ傘と2つ持ってきているんだが、良ければ貸すぞ」

神か。神ですか。鬼道くんが眩しい。

「いいの!?ありがとう」

「今日も図書館で勉強して帰るならば、部活が終わり次第家まで送るが…」

「えっ!!??いやいや悪いしいいよ!!」

割と必死に断ってしまった。違うの好きなのでも突然過ぎて受け入れられないの。あと信じられないの。

「名字とは一度ゆっくり話してみたいと思ったのだが…迷惑か?」

「迷惑なんてとんでもない!じゃ、じゃあ、お願いしてもいいかな?」

若干どもる。さっきから鬼道くんが何を言ってるかわからない。いやわかってるんだけど。正直キャパオーバーだ。幸せすぎて死ぬ。図書室行かずに帰ると考えていたことはすべて吹き飛んだ。そんなこともある。

「もちろんだ」

鬼道くんが満足げに笑う。
嗚呼、今なら死んでもいいかもしれない、そんなことを思いながら部活に向かう鬼道くんを見送った。




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