鬼道くんと隣の席になってからなのだけど、重大な事実に気づいてしまった。
寝られない。
授業中寝れないのだ。いやまあ普通に考えて授業て寝るものじゃないけど。けど今日ちょっと寝不足なんだよね、危ういけど隣になってからまだ寝ていないから、多分大丈夫。
「…はっ」
寝ていた。寝てしまっていた。
チラリと横に視線をやると、目が合う。
目が合う。それはつまり、見られていたということで。恥ずかしさで顔がだんだん赤くなるのがわかる、目をそらす。
どうもこう、上手くいかない。
授業の残りの時間も、上の空であった。
「授業中寝るのは感心しないな」
授業が終わってひとこと、鬼道くんが言った。ごもっともです。えへへへと誤魔化すように笑うことしか私には出来なかった。鬼道くんにだらしない怠惰な奴だと思われたかもしれない。いや、思われた。勤勉な鬼道くんだもん、評価下がったろうなぁ。自分でも凹んでいるのがわかる。もう寝ない、固く心に決めた。
『授業中寝てたんだって?』
その日の夜。不動くんからRINEがきた。普段RINEなんて送ってこないのに、こういう時だけ送ってくるんだ。ていうか、
『なんで知ってるのー!?』
授業中寝たのは別に今回が初めてじゃないし、どうして他クラスの不動くんがそれ知ってるんだ!
『鬼道に聞いた(・∀・)』
えっ何顔文字かわいい。その顔文字のチョイスに不覚にもときめいてしまったがそれ以上に意外なことに気づいてしまった。気づいてしまった。途端に火照る顔。家でよかった。存分に喜べる。
『それって鬼道くんが私のこと話題にしてたってこと!!!???』
いやだってそういうことじゃないか。鬼道くんが私のことを自ら話題にしてくれたってこと、だよね。仮に不動くんが私の話を振ったとしても、それに便じて寝ていた節を話にしてくれたのだ。寝ていたという話題は正直恥ずかしさしか込み上げて来ないけれど、そんなことはどうでもいい。素直に私のことを話題にしてくれたという事実がただただ嬉しい。
『おー、そういうこった』
『嬉しいやばい』
おうおうと慈悲に満ちた目をしながら呆れた表情をする不動くんが脳内に浮かぶ。きっとまた呆れ顔なんだろう。一時的に上がったテンションも少しは落ち着いた、でも今日はきっとニヤニヤが止まらない。
『あ、そうそう鬼道クンが「疲れてるんだろうか」って心配してたぜ』
追い打ちのRINEに、私は今日は寝られない。
幸せすぎて、しんでもいいと思ってしまった。
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