「君が札屋かい?」

「あっはい。えっと…」

今日の売り上げノルマは達成した!と、少し早いが帰路についた挙句これである。気分は残業を押し付けられたリーマンです。


突然だが、札屋に新規の客がくることは少ない。大体が私の元担当上忍やイズモさんコテツさんのように、最初のうちから利用してくださっている方々である。

あとは「アスマさんから教えて貰って、」や「ゲンマさんが面白そうに話してたから、」などの紹介客がはっきりしている。
でもゲンマさんが誰かは分かってないです。顔と名前が一致しないのってよくあることだよね!

そして今私の前にいるのが、珍しい新規の客、カブトである。後にラスボスになるであろう薬師カブトである。
その薬師カブトが私の目の前に立っている。

あかん、と思った。

営業スマイルのまま固まってる私を見て、カブトが苦笑する。

「ああ、ごめんね。僕は薬師カブト、下忍だよ」

額当てをコツんと叩いて忍者アピールをしたカブトを見て思った。

うさんくせぇ…!なんで中忍試験までほっといたのか疑問に思うくらい笑い方が薄っぺらい。
どっかのハンター漫画の某副会長並に目が笑ってない。
こわい。初対面のカカシさんよりこわい。逃げたい。逃げ出したい。

ふっ、と、息をついた。落ち着け私。

ここで逃げたら大蛇丸に目をつけられるかもしれない。
大丈夫。カブトも大蛇丸も私のことを知らない。下忍にすらなれなかったただの落ちこぼれだ。
大丈夫。

「すみません、札はもう売り切れてしまって…。それに、下忍でしたら中忍以上の方からの紹介が必要です。」

ごめんなさい と頭を下げる。
売り物用の札が売り切れたのは本当だ。
だからポーチの中は空っぽ。
だが、服のポケットには何枚か入っている。売ろうと思えば売れるし、常連さんだったら躊躇いなく売っていた。

個人的にこの人には売りたくない。

私自身も、この札の仕組みはわかっていないのだ。大蛇丸サイドに渡ったら隅々まで研究されるのがおちだろう。

それは避けたい。なるべくなら接触を持ちたくない。

愛想笑いをしつつ頭を上げると、カブトは苦笑した。

「売り切れなら仕方ないね。でも、どうして下忍だと駄目なんだい?」

それは私の同期達が信用ならないからだよ!といいたいが、これを話すと私が元アカデミー生だと話すことになってしまう。私の情報は知らせたくないです。

よし、カカシさんを売ろう

「上忍の…銀髪でマスクした、はたけさん?に言われたんです」

なので、すみません と、今度は頭を下げずに愛想笑いをする。

「ああ、コピー忍者の…なら仕方ないね。また出直すよ」

去っていったカブトに会釈をして、できるだけ普通に角を曲がって路地に入った。
足から力が抜けて、座り込む。
ドッと冷や汗が出た。
ふう、と息を吐き、そのまま壁に寄りかかる。

マジで心臓に悪かった。勘弁してほしいしもう二度と会いたくない。あの野郎の胡散臭い笑い方が夢に出てきそうだ。
呪いでもかけてやろうか。札から火やら水やら出せるのなら呪いもできるんじゃないだろうか。

そんなことをつらつら考えながら膝を抱えて息を整えていると

「ユズ?」

声をかけられた。


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