ねむい 体が動かない 喉が渇いた

ぼんやりと眺めていた白が、だんだんと無機物のかたちをとっていく。天井だ。

長い時間をかけて、どうやら病院にいるらしいと理解した。周囲には誰もいない。

手、ある。足も、感覚がある。点滴にはつながれているようだけど、五体満足、痛みも特になし。


……なぜ?

助かったんだろうか。てっきり死んだと思ったのに。あの状況から、どうやって?

考えようとしても、浮かんだ疑問がとろとろと溶けだしていくようでまとまらない。絶好調とは言い難いみたいだ。

とりあえず、とナースコールを探そうとして、自分の体の重さに愕然とした。腕すら満足に上がらない。起き上がろうとしても、頭なんて五センチ上がった気もしない。

まあ、慌てることもないか。諦めて全身の力を抜いたところで、重そうな引き戸が音を立てて開いた。落としているとはいえ、無音の病室に高めの声が響く。この声は、いのとサクラだろう。

まだ目が覚めないのかしら、なんてぼやきながらカーテンの端から現れた淡い水色の瞳と目が合った。

「あっ」

いのが漏らした声で、サクラもこちらを覗き込む。やっぱり。

「……お、はよ」

かすれた声で話しかけると、二人はそろって眉を下げた。こういう顔は本当によく似ている。

「おはよ。具合はどう?」

「ずいぶん寝坊したじゃない」
 
いつも通りを意識しているのだろうけれど、少しだけ声が震えていた。

申し訳ないなあと思いつつ、ゆっくり口を開く。

「ナースコール、押してもらって、いい?」

 

 



すっ飛んできた看護師さんにあれよあれよと世話をされ、同じくすっ飛んできた医者に症状を問いただされた。
病室が慌ただしくなると、女子二人は苦笑して「みんなに目が覚めた事知らせてくるわね」といって帰ってしまった。また来るらしい。
「退院して落ち着いたらお茶でも行きましょ」
「アレ、つけてきなさいよね!」
そういって手を振った2人に、なんとか笑顔を返す。
アレってなんだろう。………ああ、髪飾りか。
そんな約束もしていたなあ。随分昔の約束のように感じるけれど、多分そう経ってない。


医者の話によると、脇腹の傷とチャクラ切れによる足の経絡系の損傷、あとはおそらく爆発による骨折打ち身火傷エトセトラ。割と無茶な治療をし、出血過多による体力の低下でドンびくほどの高熱を出した……らしい。全く覚えていない。
というか今も熱があるらしく、解熱剤と痛み止めを結構な量投与しているんだとか。身体が重いのはそのせいか。

何日ほど眠っていたか尋ねると、さらりと今日が5日目と教えてくださった。しかも最初の3日は集中治療室だそうだ。恐ろしいほど記憶にない。なにも覚えてやしない。めちゃくちゃ怖い。
……なにが怖いって個室入院の請求額が。

熱が下がって動けるようになるまで一週間は入院、その後は経絡系の修復も兼ねて約二週間の自宅療養。
傷は塞いでいるだけで治ってはいないので、しばらくはベッドから動かないこと。

「もともと”戦線から離れられる程度に回復させる”のが医療忍術の目的なんだよ」とは主治医の言である。残念ながら万能ではなかった。



体調を考慮して簡潔に済ませてくれたらしい主治医は、これ以上は明日にでも、と言って去っていった。意志とは裏腹に重くなる瞼に抗いつつ、なんとか礼を返す。
誰からも、木の葉崩しの話題は出なかった。頭も回らず、目の奥も脇腹もずきずき痛む。私のことは、誰が見つけてくれたんだろう。

私は助かった。お守りは私が持ってたから、火影様は、おそらく……。追いかけてきた音忍はどうなったのだろう。イレギュラーであったハヤテさんは? 送り届けた幼い姉弟は無事だろうか。カブトは、まだ私に目をつけているだろうか。

起きたら聞かなきゃ行けないことが山ほどある。でも、ひとまず危機は去ったはずだ。大丈夫、なはずだ。
 





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