息が止まった。どうしてそれがここにある? いや、この子は木ノ葉丸と言っていた。3代目の身内だ。別に不自然な事じゃない。

「どうしたの?」

かけられた声にハッとした。背負った子供が熱く感じる。そうだ、とりあえずこの子を送り届けなければ。

「…大丈夫、大丈夫だよ。行こっか。イルカ先生が探してる」

「う、絶対怒られるなあ」

「なんとなく、私も怒られる気がするなあ…」

なんで?と首を傾げる少女に苦笑する。あの人のことだ。私に対してもお小言がありそう。女で子供で忍者じゃない私なんて、真っ先に避難すべきだろうし。まあ、それで堪える私じゃないけれど。

警戒しつつアカデミーを通り過ぎる。背中の子どもも静かなもので、少女は凛としていた。しっかり警戒もしているし、きっといい忍者になるだろう。
避難場所はもうすぐだった。監視の人もいるだろうから、そろそろ向こうが見つけてくれるはず。

「あ、札屋さん!」

後ろから声がかかった。びくりと肩が震える。多分監視の人だろうけれど、なにもそんなに急に声をかけなくても、

振り返ると、見知った顔がそこにあった。木の葉ベストと、光を透かす髪に丸眼鏡。細める目は笑っていない。

「な、」

声を出せない私に、彼──薬師カブトはすたすたと近寄ってくる。

「よかったー探してたんですよ!ちょっと手伝ってほしいことがありまして」

「……お姉さん?」

「あ、ごめんねキミ、このお姉さん借りてもいいですか?多分すぐお迎えくると思うから」

「…う、うん」

少女が伺うようにこちらを見ている。大丈夫だと笑うべきだ。カブトは私を借りると言った。この子達になにかする気はない。

ふ、と息を吐く。震えるな。

「お姉さん、大丈夫?」

「大丈夫、知り合いだよ。……ちょっと苦手だけど」

訝しげながらも少女は頷いた。酷いなあ、と眉を下げて笑ったカブトは、なにかしてくる気配もない。
背中の子どもを少女に託してカブトに向き直る。申し訳なさそうに「ごめんねー」と眉を下げているけれど、彼がそんな殊勝なやつじゃないことは知っている。

「じゃ、ユズさん。行きますか」

「……はい」

飛んだカブトを追おうと足に力を込めると、くい、と服の裾が引っ張られた。

「お姉さん!これ…!」

差し出されたのは、赤いお守りだった。

「わたしはもう大丈夫だから、お姉さんが使って!助けてくれてありがと!」

「……どういたしまして」

笑うと、少女の背後の森から話し声が聞こえた。多分避難所の監視の人達だ。もう大丈夫。……彼らに助けを求めたいところだけれど、子供たちを巻き込むわけにはいかない。避難所に近いということは非戦闘員も多いだろうし、なんてったって相手はカブト、カカシさんでも苦戦するラスボス候補だ。

目的は何故か私だけ。なら、大人しくついていくのがいちばん賢いだろう。木の葉崩しはすぐに終わる。非戦闘員の避難が一通り終わったら、ずっと忍んでいた彼らが反撃をするはずだ。きっと、もうすぐ。だから大丈夫。渡されたお守りを首から下げて、服の中に入れる。望んでいた使い方とは違うけれど、役には立つかもしれない。

じゃあね、と手を振ってカブトのあとを追いかけた。少し離れた建物の上にたたずんでいたヤツは、私を見るなり「随分素直についてきましたね」と微笑む。

「……手伝って欲しいことがあるんですよね?」

「ええ、行きましょう」

「どこへ、と聞いても?」

「すぐ近くですよ」

誘拐犯のテンプレ的な台詞だ。目的はさっぱりだけれど、カブト本人がここにいるはずはない。分身かなにかなはずだ。だからと言って勝てるわけがないので、ついていくしかないけれど。

なるべくゆっくり、怪しまれない程度のスピードでカブトの後を追う。案の定、ひと気のないほうへ進んでいく。さっき私が来た方向だ。避難も済んでいる。まずい。あまり人のいないところに行くと、いくら忍者でも助けてもらえない。時間を稼がなければ。

「私は、何を手伝うんですか?」

「いえ、簡単なことですよ」

「……私に声をかけるより、ちゃんとした忍びに声をかけた方がいいんじゃ?」

「ふふ、謙遜はしないでください。貴女がいいんですよ」

優しげに、にこやかにカブトは笑う。すごく気持ちが悪いことを言われた気がする。絶対にいい事ではないのは確かだ。しかもスピードは緩める気配はない。

覚悟を決めて、足を止めた。両手をポケットの中へ突っ込む。ガサリという音を誤魔化すように、そういえば、と声を張り上げた。

「中忍昇格、おめでとうございます。特例か何かですか?試験、まだ終わってないですよね」

視線を木の葉ベストに向けたまま言い放つと、カブトはニコリと笑みを深めた。





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