ハヤテさんが怪我しようが、砂の裏切りが確定しようが、大蛇丸が関わっていようが、中忍試験は続行される。
もちろん警戒や対策のために上忍や中忍は大忙しだし、まあ巡り巡った人数不足で私の雑用も増える訳で。

ただいま何故かキバと二人で郊外の空き地の雑草を抜きまくっているなう。
何故だ。しかも枯れかけのくせに草が強い。
地面が見えないほどすくすく育った雑草は、私の膝丈を超えるものばかりだった。

「なんで俺がこんなことやんなきゃいけねーんだよ!なあ赤丸ー!」

雑草の間から顔を出したキバに、全くだ!とでも言うように赤丸が吠えた。
まあ赤丸見えないんだけどなー。雑草に埋もれてどこにいるかわからない。

「やんなきゃ終わんないでしょこれ…」

「いやおかしいだろ!二人でこの広さは無理だっつーの!」

「人手不足みたいだからね…火影様も無茶言うわ」

はあ、とため息を揃えて無言の作業に移る。いやほんとやらなきゃ終わらないんだよなこれ。
抜くより先に刈るほうがいいと思うが、依頼は“雑草を抜くこと”で、刈ったところで根っこ抜きの作業が待っている。ついでに機械なんかは無い。くそが…
もう根っこが残ろうが知ったことかと苛立ちを込めてぶっちぶっちしてると、草の中からキバの声が聞こえた。

「お前これなんとかなんねーの?札とかよー」

「無いよ。雑草抜く札って何…」

「土遁で土掘り返せば楽になんじゃね?」

「残念だけど基本忍術しか使えないんだよなー…。土遁の札作っても土がでて来るだけな気がするし。キバは?」

「俺も土遁はできねーよ。あーくそ!!」

「落ち着けってば」

沈黙が落ちて、またぶっちぶっちと草を抜き続ける。かれこれ2時間やってるはずなのに終わりは見えない。いいかげん手が痛いし背中も痛いし日差しも痛い。あーもう…

「つかれた…」

「お前バテるのはえーよ。まだ半分も終わってねーぞ!」

「私は忍者じゃないんだよ……大体こんな広い土地どうすんだ…」

「畑にするらしいぜ。ったく…自分でやれっつーの」

「へー…」

畑、畑かーーー
水分をあまり含まなそうな、若干枯れかけている雑草を見る。いけそう…か?
屈んでいた体を起こして、キバを探した。うげ、思ったより遠くにいる…体力馬鹿め。

「ねえキバー、この近くって人いる?」

「んー…多分いねえ。よな?」

ワン!と大きく同意してくれた赤丸を目で探しながら、ポーチに手を伸ばした。多分イケる…はず。

「…ちょっとさ、この札、土地の四隅に貼るの手伝ってくれない?」

近寄って結界札を渡すと、キバは首を傾げながらも頷いた。
何度もペット探しで使った札だ。キバが直接使ったことはないが、使い方くらいはすぐにわかったようで。札を受け取るなり駆けていった。
うわ、今のすごく犬っぽかった…言ったら怒るかもだから言わないけど。いや、キバだったら喜ぶのかな…




「…で?どうする気だよ」

あっという間に貼ってきてくれたキバは、戻ってくるなり息も切らさず尋ねた。すごい。はやい。

「燃やしてみる。畑なら灰も肥料になるだろうし…結界札貼ったから被害も外には行かないはずだし…」

「おお!…いや、確かに燃やすのはすげーけどよぉ。札って触れないと発動できねーよな?貼っただけで周り囲めんのかよ」

思ったより私たちを見ていたことに驚いた。
なんやかんやで鋭いやつなんだよなーと感心しながら、ポーチから出した火の札をひらひらと揺らす。

「無理だよ。火をつけたあと、ダッシュで発動させてく」

「んだよ面倒だなー」

「…延々と雑草抜いてもいいけど」

「よっしゃー手伝うぜ!札にチャクラ込めてけばいいんだろ」

「そんなにチャクラいらないし、タッチしてけば大丈夫なはずだよ。まあ結界が発動しなくてもこの辺建物無いし、大丈夫でしょ」

それじゃ、と強めの火の札を地面に叩きつけた。

「よーい、どん!」


――――

「最初からこうすりゃよかったな」

段々とくすぶりつつある炎を眺めつつ、キバが呆れたように言った。赤丸も同意するようにわふんと鳴く。
あれだけ苦戦していた雑草は、もう跡形もない。あとは軽く土を耕せばバレなそうだ。

「“雑草を抜く”っていう任務内容からズレてる気はしないでもないけど…」

まあいいだろー、と赤丸を抱き上げたキバは、こちらを向き、少しだけためらってから尋ねた。

「なあ、お前ってそんな明るいやつだったか?」

「…は?」

何を言っているんだコイツは、と目を向けると、「元が暗いって訳じゃねーぞ」と謎の弁解を頂いた。うん?

「私、アカデミーでキバとしゃべったりしてなかったっけ?」

「いや、まあ普通にしてたんだけどよ。なんっつーか… 分かるだろ赤丸ー!」

私の顔を舐めた赤丸は、きゅんきゅんと鼻を鳴らした。うーん…あいにく犬語も質問の意味もよくわからんのですわ…

「あー、話しにくかった?」

「そうじゃねーんだけどよ。キョリ?があった?っつーか?」

キバは首を傾げながら言うが、心当たりは無かったりする。まあそりゃあテンションについていけなかったりはしたけど…アカデミーと今でなにかを変えた覚えはないしな…なんだろ…

「…今の方がいい?」

聞くと、間髪入れずに「おう!」という返事が帰ってきた。降ろされた赤丸も同意するように大きく吠える。
…これは同意でいいんだよな。たぶん合ってるはずだ。

「なら、いっかな」

吐き出すように言うと、キバは切り替えるようにぐいーっと背伸びをした。赤丸もそれを真似る。かわいい。

「んじゃ、この燃えかすごまかしてさっさと終わるかー!いくぞー赤丸、ユズー」

「へーい…」

駆け出していった一人と一匹を見送ってから、少し重い足をしぶしぶ動かした。

…スルーしそうになったけど、私今、赤丸とセットで呼ばれたな。犬扱い…はキバに限ってないか。仲良くなったってことにしておこう。




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