「そんな顔しないでください」

動かない左手を右手でそっと抱えて、ハヤテさんは目を細めた。
ゆっくりと腕を膝の上に置く動作もどこかぎこちなくて、どうしようもないままうつむく。

別に何かできるわけじゃないけど、それでも気付くべきだったと思う。機会がないわけじゃなかったのに。
何をいうこともできなくて、黙って膝を見つめていると、頭に手が載せられた。右手だ。

「敵が放った攻撃が、僕の目の前で弾かれました。アレが無かったらこれくらいじゃ…まあ、すまなかったでょうね。それに、これは」

ケホっと小さく咳き込んでから自分の左手に目を向け、ハヤテさんは穏やかに言った。

「やられたのではく、やらせたんですよ。向こうもそう軽くない怪我をしているでしょうし。……残念ながら、命は取れませんでしたがね」

「やらせ…あ、庇った…?」

「ええ、…お恥ずかしながら、かなりギリギリだったので」

すこしだけ口角を上げたハヤテさんに、私も軽く息をついた。大丈夫だ。ちょっとびっくりしただけ。ハヤテさんも余裕あるっぽいし、よし。大丈夫。

「まあ、おそらく退職扱いになりますが」

「は?」

あんまり大丈夫じゃなかったかもしれない。

「動かない…というか感覚が鈍くてですね…クナイも禄に握れないとなると、流石に復帰は厳しいので…ケホッ…火影様に話もついてますしね」

「え、いや、まあ、そうなるんでしょうけど…」

薄々察してはいたけど、直接聞くとやっぱり痛々しくて思わず眉をひそめる。
確かに利き手じゃないとはいえ、片手で忍者を続けるのは無理だろう。日常生活にまで影響がでるレベルなのだ。
それはわかる。わかるし心配なのはもちろんだが、忍者じゃないハヤテさんがあまりにも想像できなくて首を傾げた。
なにするんだろう…ニート…?引きこもりとか若干似合いそうで笑えないんだけど。

「……まあ、しばらくは忙しくなりそうなので、裏方や事務には駆りだされることにはなりそうですが」

「ああ、確かに…」

ハヤテさんが生きてる以上、砂の計画も完全に漏れてるんだ。今の風影が殺されてるのが判明するのも時間の問題。というかもう分かってるのかも。
そうなったら今後大蛇丸がどう動くのか私にもわかんないし…

あとサスケの呪印とか、一尾と九尾の人柱力とか…うっ…考えただけで頭が痛い。上の人達ほんと大変だな…

「一般人の私でも働かされてるんで…ハヤテさん多分かなり使われますよね…」

「ですねえ…」

はあ、と二人で軽くため息をついて、どちらともなく苦笑した。給料もらってるから文句はないですけども。

「…そういえばハヤテさん、この前は忍びに戻るとか言ってませんでした?」

「ああ…まあ、嘘です。すみませんね」

「いや、いいんですけど…」

「ケホッ…そもそも、キミに知らせる予定は無かったんですよ。気づかれないうちに、上手く消える予定でした」

まあバレてしまいましたが、と肩をすくめて軽々しく言ったハヤテさんに顔をしかめた。上手く消えるってそんな簡単じゃないと思うんですけど…
あーもう、これだから忍者は。

「ハヤテさん結構キャラ濃いんで、そう簡単に忘れなかったと思いますけどね」

わざとらしくため息をつきながらを言うと、「そうでしたか?」と言って、ハヤテさんはくしゃりと笑った。
あ、それも初めて見る顔かもしれない。






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