手ぶらで見舞いは良くないと、やまなか花屋に(強引に)寄り、いのは薔薇を、サクラは水仙を、私はマリーゴールドを一本選んだ。特に意味はない。直感です!
いのの手によってクルクルとラッピングされたそれらを持って病室に向かうと、慌ただしげに通りかかった看護師さんが気まずそうに目を伏せた。
「申し訳ございません…うちはサスケさんは昨夜から病室を開けてしまわれまして…。まだ絶対安静なのに…」
うん。警備がザルだったのか、サスケが忍者したのかどっちだろうな…半々かな…。
ショックを受けて花を持て余してる二人に、ごめんと声をかける。
「私、そろそろ帰るよ」
「なによユズ。リーさんのとこ、行かないの?」
「流石に面識ない人のお見舞いするのはちょっと… 向こうも気を使うだろうし」
「まあ、そうね。分かった。花、家にでも飾ってちょうだい」
「また任務でね」
「うん。ありがとね二人とも」
二人に背を向けて、入り口まで戻った。
さて、ここからが本命である。というかこのためにわざわざ花を買った。
別の棟へ繋がるひと気のない通路に入り、階段を登る。前回来た時はあまり気にしなかったが、曲り角が多いし通路も狭い気がする。
迷ったら最悪窓から出よう。忍者じゃないけどしかたない。
うろ覚えの道を勘で進んでいると、いくつかの階段を登った先にフードの暗部がいた。ビビる気持ちを抑えて、辺りを見回す。病室のドアと、名前の入ってないネームプレートには見覚えがある。
うん。あってる。
暗部はチラリと私を見たが、すぐに真正面に顔を固定した。え、これ入っていいってことだよね。ドア開けた瞬間にクナイ向けられたりしないよね。
ビクビクしながらも、コンコンとノックして控えめに声をかけた
「ハヤテさーん…いらっしゃいますかー…」
「…ユズさん、ですか?」
「はい。お見舞いに」
「ああ…大丈夫ですよ。入ってください」
そろりとドアを開けると、妙に似合う病人服…ではなく、普通のTシャツに身を包むハヤテさんが、前回同様ベットにもたれていた。
病院で一日中寝れるはずなのに隈が取れてないし、むしろ深くなってる気がする…アイデンティティって大事だもんね…
「ケホッ…お久しぶりですね。何かありましたか?」
「あ、いえ、病院に用があったので…。これ、お見舞いです」
手に持っていた黄色い花を見せると、ハヤテさんの顔がふっと緩んだ。
「わざわざ…ありがとうございます。…すみません、花瓶をとってもらっても?」
刺された先にある小さめの花瓶を手に取る。空っぽだし少し埃っぽいから、誰も花なんて持ってこなかったんだろう。もうちょっと早く来ればよかったなあ。
水の札を取り出して花瓶に水を満たし、花を活ける。後ろから「便利ですね…」という少し呆れたようなハヤテさんの声が聞こえた。最近こういう小技にしか使ってないからな…
「あの、もう大丈夫なんですか?」
「身体が…ですか?まあ…まずまずといったところですかね。明日明後日にも退院出来るかと…」
「え、おめでとうございます。あー、荷物増やしちゃいましたね…」
「いえ、花なんて久しぶりですから…ちゃんと持ち帰らせていただきますよ」
ケホケホと咳き込んでいたせいか、少しだけ険しかった顔が緩むのを見る。
せっかく病院にいるんだから咳も隈も治してもらえばいいのになあ。
下手したら入院前より隈が濃…い…?
流石におかしい気がする。
気のせいかもしれないけど、前回と体勢が全く変わってないような、身体を動かすのを見ていないような…
「…ハヤテさん、あの、大丈夫、ですよね?」
真正面から目を見てもう一度尋ねると、ハヤテさんは眉を下げて、仕方がないとでも言うようにゆっくりと笑った。
この顔は、初めて見る気がする。
「実は、腕があまり動きません」
確かめるようにゆるゆると上げられた左腕は、胸のあたりで縛られたように動きを止めた。