「じゃあ私、そろそろ帰ります」
「あ、ユズさん」
「なんです?」
「私はしばらく死んだ事になりますので…」
「は?」
咳込みながらついでのように言われた言葉に、浮かしかけていた腰をおろした。いや、そのほうが動きやすい?のかな?
「ゲホッ…向こうは私を仕留め損なった事になりますから… 襲撃されても面倒ですしね。まあ、既にバレていると思いますが」
「え、それって…意味あるんですか?」
既に敵方にバレている時点で嘘つくメリットなんてあるんだろうかと首を傾げると、少し不満そうな顔でハヤテさんは答えた。
「ただの気休めですよ。暗部もついていますし。ともかく、私がここにいることはご内密にお願いしますね…」
「あーっと、了解しました。お大事になさってくださいね」
まあ火影様が絡んでるなら私が気にすることじゃないだろう。よし、気にしない。
別れを告げて病室を出ると、暗部がさっきと全く同じ場所に同じ体勢で立っていた。ほんとに人間なんだよな?実は中身ロボットだったりしない?傀儡とか。
ドキドキしながら軽く会釈をして階段を降りる。私は忍者じゃないので窓から飛び降りたりしません。
あ、軽くスルーしちゃったけどこれ箝口令か!ということは、ある程度は信用されてるんだろうか。わざわざアンコさんが知らせてくれたんだし… それとも、お守り関連で呼ばれただけなのかなあ
うーん。上の考えはよく分からん。
それでもやっぱり、秘密を共有するというのは認められたようで嬉くて。
「なーにニヤニヤしてんの?」
「ひっ…あ、え、カカシさん」
背後からの声に肩が震えた。苦笑するカカシさんにため息を返す。だから私は忍者じゃないんですってばー 気配察知能力なんてアカデミー生並なんですってばー
「あーっと、ユズはお見舞い?」
「んー、まあそんなところです」
ハヤテさんのお見舞いとは言えず言葉を濁すと、俺は知ってるからと軽く流された。うん、まあそんな気はしていたから別にしっかり隠すつもりはなかったんですけれども!でもなんか腹立つぞ!
「カカシさんもお見舞いです?」
「ま、そんなとこ」
十中八九サスケの見舞い兼見張りだろうなーと思いつつ、飄々と返したカカシさんに、そーですかと頷いた。仕返しにもならない!私も知ってるというのに!
ひと気の少ない廊下を歩きながら、隣のカカシさんを見上げる。サスケが起き次第、修行をつけるんだろう。この人もめちゃくちゃ忙しいなあ…
「…あの、カカシさん。中忍試験、どうでした?」
「んー?」
「同期のメンバー、かなり善戦したみたいだったんで、気になって」
「うーん… ま!成長は見られたかな。ナルトが本選まで残ったのは少し驚いたが…」
「えー、実はナルトに一番期待してたの、カカシさんなんじゃないですか?」
「まあ、そうかもしれないな…」
そういったカカシさんは嬉しそうに笑っていて。少しだけナルトたちが羨ましくなった。こんなに成長を喜んでくれる上司、前世にいただろうか…生憎あんまり覚えてないんだけれども。
人が目立つようになってきた廊下で、カカシさんは、じゃーね、と姿を消した。人が急に消えても驚かなくなってきた自分に心の内で拍手をする。順応ってこわい。
アンコさんに言われたことだし、久しぶりに帰って修行でもしようと、家の方向に足を向けた。
例の手を使わない木登りだけで疲れるのは、チャクラの使い方が下手なのかもしれないし…いやでもチャクラってどうやったらうまく扱えるんだ…