細い路地をいくつか通り、見失いそうになりながらも小走りで追いかけ、着いたのは木の葉病院だった。
それにしても、まじでこの人空気読まない。こっちよ、とスタスタと進むアンコさんに八つ当たりをしたくなる。泣いてる暇なんてないじゃないかと歯を食いしばった。
上へ、奥へと進むごとに、ちらほらと見かける面とフードの人達は、恐らく暗部だろう。不審者にしか見えなくてびびる。せめて面の上からフードかぶるのやめようよ。
私はどうしてここに連れてこられたんだろう。試験のあと、確かここにはサスケがいた気がする。ということはカカシさんが私になにか用があるのか。とりあえずカブトには会いたくないから呼ばないで欲しかったなあ。
「着いたわ。ああ、警備ご苦労様。この子は大丈夫よ」
病室の前で警備をしていた暗部に一言かけると、ほら、と私をうながす。
「あの、アンコさんは…」
「私は戻るわ。ああ、火影様がね、今日は家に帰って休むように仰ってたわよ」
「あ、ありがとうございます…?」
「彼、さっき目が覚めたみたいよ。じゃあね」とぽんと私の頭を叩いたアンコさんは、廊下の窓から飛び降りていった。これだから忍者は…階段の意味あるのだろうか。
後ろに立っている暗部をちらりと見るも、特に反応はない。無反応のままこちらをジッと見ている。なんだこれめちゃくちゃこわい。
逃げるように扉を開けると、白い部屋の白いベットには、見知った人が座り込んでいた。ゲホゴホと乾いた咳が病室に響く。
「ああ、ユズさんでしたか。どうぞ、そこの椅子に」
うそだ。だってこの人は、助けられなかったはず。
「ハヤテ、さん…?」
「ええ。どうかしましたか?」
「死んだんじゃ、なかったんですか」
「人を勝手に殺さないで頂きたいのですが…」
生きてますよ、と困惑しながらもしっかりと言ったハヤテさんに、ふっと力が抜ける。座り込みそうになった足に気合を入れなおした。ああもう、あの人たち紛らわしい態度とりやがって!覚えてろよ!
とりあえず座りませんか、と勧められたベット脇のパイプ椅子に腰掛ける。点滴に繋がれ、額当てを外し、中忍ベストではなく病院服に身を包むハヤテさんは、いつもより顔色が悪く見えた。
「体、大丈夫なんですか…?」
「まあ…いくらか怪我はしましたけどね。医療忍術はすごいんです。大丈夫ですよ」
ふ、と沈黙が落ちる。ここまで警備が厳重だったんだ。戦ったのは夜中のはずなのに、もう昼を過ぎている。アンコさん曰くさっき目が覚めたようだし、もしかしたら相当危なかったのかもしれない。でも、紙一重だったかもしれないけれど、生きている。
「一つ、謝らなくてはいけないことが」
「え…?」
「お守り、壊れてしまいまして……」
つい、と視線をやった机の上には、これでもかというほどボロボロになったお守りがあった。真ん中のあたりがザクリと刃物で切られたように破れていて、中の札は何が書いてあったかも分からない。ふと、紙の上で見たハヤテさんの遺体と重なった気がして、ぞくりとした。
「……あれは、役にたてましたか?」
やっぱり、というように口元を釣り上げたハヤテさんは、ゆるく頷いた。
「ええ、とても。ありがとうございます」
「よかった。……札屋の信頼は落ちなかったようですね」
冗談めかして笑うと、ほっとしたように小さく息を吐かれた。
再び沈黙が落ちる。
ぽたりぽたりと落ちる透明な点滴を眺めていると、ハヤテさんが口を開いた。
「火影様からも連絡はあると思いますが、他国の忍には気をつけて下さい」
「あ……はい」
どこの里ですか。やっぱり砂隠れの上忍にやられたんですか。
口をつぐむと、ハヤテさんが真面目な瞳を向けてきた。これは聞かないほうがいい。
「分かりました。ありがとうございます」
頭を軽く下げて、あ、そういえばと口を開く。
「ハヤテさんは、いつごろ退院出来そうですか?」
「ああ、退院は一週間程で… しかし、忍に戻れるのはもう少し先になりそうですね…」
「そう、なんです?」
「まあ、休暇とでも思ってゆっくりやりますよ」
微笑みながらもゲホゴホと漏らした咳は、格好のせいか、いつもより辛そうに見えた。