いつも通り待機所の扉を開けると、一瞬だけ空気が固まった。気がした。

「おはよう、ございます……?」

いつもなら笑顔と共に帰ってくる返事も、どこかぎこちない。なにより、あまり目が合わない。首を傾げながら定位置となってきた隅のほうへ進む。ポーチから札を出そうとして、カサリと飴玉に手が触れた。もしかして、いや、まさか。

「ハヤテさん……?」

口をついた言葉に、再び目が逸らされる。ああ、今日、ちがう、昨夜だったんだ。じゃあ、この反応は、恐らく。

「ハヤテさんは、どこですか」

静まり返った待機所で、誰かの声が響いた。すまん。教えられない。


何故ですか、と問おうとして口を閉じた。どこか冷めた頭で、箝口令か何かだろうと思う。
私が忍者じゃないから、何も知らせてはくれないんだろう。私は何も変えられなかったんだろう。


落ち着けと自分に言い聞かせて、深く息を吸う。

簡単に思い通りに行かないなんて、前から分かっていたことだ。試験に落ちて、下忍にすら、スタートラインにすら満足に立てなかった。そこで学習できなかった私が馬鹿だ。中途半端に助けようと思って、思っただけで、結局何もしていない。
私しか知らなかったのに。私しか助けられなかったのに。見捨てたも同然だ。私が、ハヤテさんを見捨てた。


ちくしょう、と唇を噛みしめたとき、扉がものすごい勢いで開いた。何かが割れたような音がした、気がする。

「札屋の子はいる?」

キョロキョロと見回して、私と目があった女性はニッコリと笑って近寄ってきた。え、この人って、

「はじめまして。みたらしアンコよ。早速で悪いけどついて来なさい!」

ポカンと口を開けていると、ほら早く!なんて急かされる。何がだ。

「アンコ特別上忍!もしや…」

「大丈夫。火影様直々に頼まれたのよ。心配いらないわ」

何やら止めようとしたらしいセリフを遮って、私の手首をガッシリと掴む。
ほら!と歩き出すアンコさんに腕を引かれながら、待機所を後にした。あーもう!なんなんだ!!


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