ゲンマさんが帰った後、適当なところで夕食を喰べ、横になったところから記憶がない。気がつくと昼前だった。最近寝すぎじゃないか…そんなに早い時間に寝た覚えはないのに…
いや、気を取り直して一稼ぎするか。ハヤテさんに作った札も渡さないと…と、まだ若干疲れが残っている体を持ち上げ、パーカーに腕を通したところで、重大なことに気がついた。
この札、どうやって渡そう。
このままぺらりと渡してもいいが、もしも破れたりしたら効果はない。それはリスクが高い気がする。しかし意地でも持ち運んでもらわなくては…うわーやらかした。しかも札に書かれてある“守護”という文字を見れば、どんな効果か一目でわかってしまう。流石に怪しまれるかもしれない。うーむ。
確か、ハヤテさんが襲われるのは少なくても三時予選のあと…えっと、二次試験と三時予選は同じ日で、二次試験は5日間って誰かに聞いたから…明日?え、三時予選終わるの明日?
…出来れば今日中に札を渡したい。明日ハヤテさんに会えるとは限らないんだし。あー完全に計算ミスだ。
仕方ない。とりあえず火影邸の前に手芸屋でも寄っていきますか。くそう思わぬ出費だ。
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待機所の隅に陣取って、なけなしの女子力を振り絞ってちくちくと端切れを縫う。手芸屋に行く前に仕立て屋のおばちゃんに見つかって、適当な端切れをいくつか分けてもらった。ついでに針と糸も。うーん。私の持ち物、八割が貰い物な気がする。いつかお礼しよう。
時々くるお客様の相手をしながら、一番丈夫そうな布で小さな袋を作る。ふむ。中に小さく畳んだ札を入れて、お守りの完成である。流石だぜ私。
思わずニヤけていると、いつの間にかカカシさんが目の前に。あれ?さっきまで誰もいなかったはずなんだけどな!?ニヤけてるとこ見られたな!?
「なーにやってんの?」
「あーっと、お久しぶりですね。任務お疲れ様です」
「どーも。で?なにをニヤニヤと…」
あーもう。出来れば隠したかったんだが仕方ない。カカシさんに限らず、誰かにバレると怪しまれそうで嫌だったのに…
「ただのお守りですよ。ハヤテさんに」
「ハヤテ?なんでまた…」
眉をひそめたカカシさんに、できるだけ普通に返す。
「最近いっぱい飴玉くれるんですよ。それにあの人…ちょっとあの…顔色が…」
なので無病息災も込めて、とお守りをぶら下げると、ああ…と納得したように小さく息を吐くカカシさん。全部が嘘なわけでは無いけど、どうやらごまかせたようだ。よし。
そういえばこの人、任務立て込んでるんじゃなかったっけ。なんとなく疲れてるように見える気がする。
「今日の任務、終わりです?」
「ん?まあね。しばらく里外は無いかな」
「よかったですね。」
「んー。厄介な事が起きなきゃいいけど」
少しだけ眉をひそめたカカシさんに愛想笑いを浮かべる。近いうちに起きますよ、かなり厄介なこと。なんて言えずに、作ったお守りを握りしめた。
サスケかーサスケなー。正直そこまで仲がいいわけでも無いし、あの子が里抜けしてくれないと何も変わらない気がする。同期達には申しわけないけど止める気はないし、私には止められないだろう。大蛇丸はサスケを殺す気はないし。というかそんなことより、木の葉崩しの被害がなー。
ふむ。と考え込んでいると、隣から視線を感じた。やっべ。
「…カカシさんの悪い予感って当たりそうですよね」
「え、失礼じゃない?」
「札いっぱい作っといたほうが良さそうですかねー」
「そんなことより戸締りをちゃんとしなさいよ…」
「鍵なんて立派なものついてないです」
「よくそれで今までなにも無かったねえ」
はあ、とため息を吐かれた隣で内心ガッツポーズ。よし、ごまかせたようだ。ポケットから飴玉を一つ取り出して口に放り込む。うむ。おいしい。
「ま、なにかあったら言いなさーいね」
飴玉が喉に詰まりそうになって、軽く咳き込みながら顔をそらした。幸いにもカカシさんはこちらを見ていない。くっそ、なんか誤魔化したのバレてるんだろうなあ。
「…何か起きる前に、カカシさん達がなんとかしてくれますよね」
「まーね」
「頼りにしてます」
はいはい、と漸く目が合ったカカシさんと、お互いに眉を下げて笑った。
と、カカシさんがあ、と声を上げた。
「え、なんですか」
「よかったね」
「え?」
首をかしげていると、ゲホゴホと咳き込む音と共にドアが開いた。ああ、なるほど。というかカカシさん、なんか犬っぽいです今の。
「ハヤテさん、お疲れ様です」
「ああ…ユズさん、カカシさんも」
ちら、と視線を向けられたカカシさんが手をひらひら振りながら立ち上がった。肩越しにこちらをちらりと見る。はいはい、渡しますって。カカシさんが出ていったのを見送って向き直った。
「あのーハヤテさん」
ケホッ…と咳き込みながら首をかしげたハヤテさんに、先程まで作っていたお守りを差し出す。
「飴のお礼、お守りです。効果はあるかと思いますよ」
「これは…ユズさんが?」
「はい。なるべく、できる限り、肌身離さず持っててください。あと、無理は禁物です」
これくらいしかできないけれど、これが私の精一杯だ。ハヤテさんの目を真っ直ぐ見て言うと、微笑んで受け取ってくれた。
「ありがとうございます。大切にしますね」
ほっと息をつくと、頭に手が乗せられた。
「あなたも、無理はいけませんよ。顔色が悪いです…」
いやお前が言うか、と言いたい気持ちを抑えてお礼を言った。まあ私のは普通に貧血と寝不足なんだろうけど。心配されてこんなに複雑な気持ちになったのは初めてですよ。