任務があるからと出ていったゲンマさんを見送り、待機所の片隅に腰掛けた。なるほど、誰か来るまで基本暇な商売になりそうだ。明日からはなにか暇つぶし出来るものでも持ってくるべきだな…
手持ち無沙汰なので、ポーチや服のポケットから札を出して数えていると、キィ…と扉が開き、アスマさんが顔を出した。
「お、ユズじゃないか。上手く話が通ったようだな」
「アスマさんのおかげです。ありがとうございました」
深く頭を下げると、「そんな畏まるなって」と苦笑される。
「今日の任務は終わったんですか?」
「まあな、明日のために各自調整しろってことで解散させたさ」
窓を開けて身を乗り出しながら煙草に火をつけたアスマさんを眺めつつ、明日…ああ、中忍試験って明日からか…ということは一次試験と二次試験開始があるわけだから…?と一人納得していると、扉から不健康そうな─ハヤテさんが顔を覗かせた。
「あ、やはりここにいましたか。アスマさんもご一緒で」
「ハヤテさん。さっきぶりです」
咳き込みながら挨拶をしたハヤテさんに会釈を返すと、アスマさんは「ほー、知り合いだったのか」と窓に向かって煙を吐いた。ハヤテさんは、「ええ、まあ」なんて返事をしながら私の近くに腰を下ろして咳き込む。大丈夫なのかこの人…
「そうだ。いいところに来たなハヤテ」
そう言ってニヤリと笑ったアスマさんは、腰のポーチから小さな饅頭を三つ取り出し、二つを続けて予備動作無しでポンポンと放った。げ。こんなところにも忍者の燐片が…
身構えた私の目の前で、二つの饅頭はハヤテさんの手のひらに吸い込まれる。片手キャッチすげえ
「食べ物を投げるのは感心しませんね…」
「はは、すまんな。あとで火影様にも言っといてくれ」
「あの人がそんなことするのはアスマさん相手だけですよ」
全く…とジト目を向けながらペリペリと個包装を剥いていくハヤテさんを横目に、手渡された饅頭に目を向けた。思えばこっちで饅頭を食べるのは初めてかもしれない。団子とかは食べた気がしないでもないけど。というか最後に甘いもの食べたのいつだろう…
「ユズさん?どうしました?」
「いえ、饅頭ひさしぶりだなーと思いまして」
「甘いもん嫌いか?女の子はみんな好きだと思ったんだがなあ」
「食べる機会が無いだけで嫌いじゃないですよ」
というか今まで甘いものに意識が向いていなかったのに驚きだ。個包装を剥がして頬張ると、餡子のあっさりとした甘さが口に広がった。んーーうま。
「…焼肉の時も思ったが、美味そうに食うねぇ」
「では、これも差し上げますね」
ケホコホと咳き込みながら差し出してきたハヤテさんの手には大量の飴が乗っていて。量的にちょっと引く。どっからだした。
「…これどうしたんです?」
「頂いたのですが、なかなか食べきれなくてですね」
「え、貰い物?私がもらってもいいんですか?」
「…コイツがよく咳き込んでるから、みんな見てらんなくて飴玉寄こすんだろうよ。もらっとけもらっとけ。どうせまた貰うハメになんだろうさ」
スパーと煙を吐いたアスマさんに、なるほどと頷いて大量の飴玉を受け取った。とりあえずハヤテさんはその体どうにかするべきだと思うよ。