「失礼します」
おそるおそる扉を開けると、真正面にいた三代目が楽しそうに笑った。
普通に入っちゃったけどノックとか必要だったんだろうか。必要だっただろうな…… 早速やってしまった。ナルトたちがノックせずに入る印象しかなかったせいだ。
「ほっほっほ。そう緊張せずともよい。君が札屋じゃな?」
「あ、はい。ユズといいます」
それにしても名前より札屋呼びのが多いのは何故だろう。噂にでもなっているのかもしれない。
「話はアスマとカカシから聞いておる。中忍試験の間、ここで商売することを許そう。その代わりと言ってはなんじゃが…」
「はい、なんでしょうか」
一度止められた言葉にドキリとする。が、三代目はニッコリと笑って言った。
「その札とやら、儂にも見せてはくれんかの?」
「もちろん構いませんが…」
安堵した心を押し隠して、ポーチから札を何枚か取り出す。
うーん。札見せただけじゃわかんないし、かといってここで発動するのもなあ…というか火影邸で術発動するのってどうなんだろう。
「…では、これを差し上げます」
威力が中くらいの札を何枚か渡そうとし、木ノ葉崩しのことを思い出して、威力最大の血文字札も上乗せした。結界札も忘れずに。
「こちらの札にチャクラを流し込めば発動します。起爆札と同じようなものと考えてくださって構いません」
試すならこちらで、と、威力中の札を指さす。そしてこっちが本題。
「こちらの血文字の札は、普通の札の何倍もの威力があります。微力とは思いますが…」
「ほう、こりゃあ有難い。しかしこんなに構わんのか?売り物であろうに」
私にはこれくらいしか出来ないので、という言葉を押しとどめて、意識してニヤリとわらった。
「所謂みかじめ料ですよ。お気になさらず」
「ほっほ。面白いやつじゃの。お主は忍びになろうとは思わんのか?」
「思いませんよ。私と同期で忍びになった人達は、みんな強いんです。あの場に立てたら、なんて考えは吹き飛びました」
「ほう、達観しておるのう。…確かにお主には忍びは向いていないのかも知れぬな」
「…そうですか?」
「お主は身体と心のバランスが取れておらぬように見える。何故だかは知らぬがの」
驚いている私を他所に、それにじゃ、と三代目は続ける。
「その赤い布、似合っておるぞ」
ほっほっほ、と笑った目の前の老人に、何故だか敵わないと思った。
「ありがとう…ございます」
軽く頭を下げると、ノックの音とともに、「失礼します。火影様」という声が響いた。
「では、三代目様…」
「うむ、またくるとよい。茶でも用意しておこう」
失礼します、と言い残し、背を向けると、入れ替わりのように入ってきたいつかのイケメンなバンダナお兄さんと目が合ったので、ぺこりとお辞儀をしておいた。
扉を閉める直前に聞こえてきた「アイツ、火影様のこと三代目様って呼ぶんですね」という言葉に、やってしまったと頭を抱えた。
確かに、私の世代は火影様=三代目様だろう。その他の火影を知るはずがないんだから。
…………特に気にされないことを願おう。