火影邸に到着し、私が瞬身のスピードに唖然としていると、カカシさんは私に背を向けて言い放った。
「じゃ、あとは頑張ってネ。火影様に話は通してあるから。一応挨拶するよーに」
後ろ手にひらひらと手を振りながら去っていくカカシさん。
…ここまで送ってくれたならもう少し面倒見て欲しかった…七班の待ち合わせにはとっくに遅刻してるんだろうし…
渋々歩いて火影室を目指す。
それにしてもセキュリティとか甘いのではないだろうか。いや、この場合は警備か…?
いいのかな。こんなに簡単に一般人入れちゃって……
中に入り、辺りを見渡しながら歩いていると、ものすごく体調が悪そうな人と目が合った。
うわ見たことある… 試験官の人だ…!
思わず視線をそらすと、「札屋とは、貴女のことですね?」と話しかけられた。
顔色の悪さも相まって少しびっくりしてしまった。こわい。
「あ…はい。こんにちは」
「噂は聞いていますが…何故ここに?」
「えーっと、火影様に用事がありまして… 」
言いながら、風邪ならうつさないでほしい…医療費に割くお金ないです…と少し距離を置くと、その人は少しだけ口元を釣り上げた。
「ゴホッ…生まれつきなので心配はいらないですよ」
「はあ…」
まさか思ってること見破られたのだろうか…失礼なことをしてしまった…
そっと距離を縮めると、咳き込みながら「慣れているので気にしないで下さい」と言われた。
それにしても具合が悪そうだ…大丈夫だろうか…
「それと、火影室なら私も用があります…ご一緒しても?」
「いいんですか?助かります。迷いそうだったので」
この人といれば私も怪しまれないだろうし!
「ああ、自己紹介がまだでしたね… ゴホッ…月光ハヤテと言います」
「私はユズです。札屋をやってます」
「ユズさんですか。貴女は忍びではないと聞きましたが…」
「はい。お恥ずかしながら下忍昇格試験に落ちてしまって…」
はは、と笑いながらいうと、ハヤテさんは「そうでしたか…」と呟いた。少しの間、無言で足を進める。若干気まずいです。
と、突然ハヤテさんが立ち止まった。
「ここが火影室です。では、これで」
「えっ、用事があったんじゃ…」
「僕の用事は後でも構いませんのでね…」
ゴホッゴホッと咳き込んだハヤテさんは、またも口元を釣り上げて去っていった。
「あ、ありがとうございました!」
監視かな?とも思ったが、理由がどうであれ送ってくれたんだから、と頭を下げる。
さて、と向かい合った重そうな扉の前で、小さく深呼吸した。