ハードルをいとも容易くぴょんぴょんと飛び越えていくヒナタちゃんを見て、前世で木から木へ飛び移って移動していただけあるなぁと思った。現在2クラス合同の体育の授業であります。一応男女別なので遠慮なくヒナタちゃんとキャッキャウフフができる。
というか乳がとてもじゃまそう。すごい……
ふとトラックの反対側に目を向けると、恐らくヒナタちゃんを見ていたであろう男子たちが、うずまきくんに叩かれてるのが見えた。思わずニヤけそうになる口元を抑える。頑張れうずまきくん…!
「あの、ケイちゃん…!」
「あ、ヒナタちゃん!お疲れー。速かったね!」
「む、昔から体育は得意なの…」
みんなには意外って言われるんだけど…と続けたヒナタちゃんに、はははーと笑う。から笑いになっている自覚はあります。
私だって元忍者ってことを知らなかったら驚いてたと思う。この胸めっちゃ揺れおるし。
「あ、次、ケイちゃんだよ」
頑張ってね…!と小さくガッツポーズをしてくれたヒナタちゃんに、ありがとー!と手を振った。それにしても胸がすごいな。
スタート位置につき、合図とともに走り出す。
と、視界に男子が写った。
恐らく遅刻してきたであろうその男子は、色白で、大きめな長袖ジャージを着ていて、無表情で、真っ黒い髪をしていた。
…サイ?
思わず目で追いながらハードルを飛ぶ。
抜き足が引っ掛かり、あ、と思った時には遅く、ガッシャーンという派手な音と共に、ハードルごと地面に倒れていた。
あっちゃー…高校生にもなって派手にコケてしまった…
「ケイちゃん…!だ、大丈夫?」
「ってて、だいじょぶ。足すりむいただけだよー」
駆け寄ってきたヒナタちゃんに笑顔を返すと、遠くから体育教師に「保健室行ってきなさーい」と叫ばれる。お恥ずかしい。
「わ、私もいくよ!」
「いや、そんな深くないから歩けるよ。一人でへーきへーき」
ひらひらと手を振りながら保健室に向かう。サイらしき人は他の男子に紛れてしまったのか、もう見つからなかった。
キィ…と校庭に面した保健室の裏口を開けながら呼びかける。
「失礼しまーす。すみません、ちょっと転んじゃって…」
「ああ、見てたよ。また派手にやったねぇ…そこに座りな」
んーなんか聞いたことある声…?
クリーム色に近い髪を後ろで緩く結んだ保険医に目を向ける。
どっかでみたことある…ぞ?
「ほら、消毒するから足みせて」
「あ、はい…」
「あー、砂入ってるな。落とすからじっとしてるんだよ」
「…はい」
どっかで見たことある気がするんだけどな…?と、悶々としていると、コンコンとノックの音が響いた。
「失礼します…綱手先生!この書類サインしてくださいって言ったじゃないですか!」
「ああ、シズネさんですか。すみません。忘れていました」
「もう…何度目です?しっかりしてくださいよー。あと!私のことは名字で読んでください!加藤ですよ加藤!」
「だって敬語抜くとシズネさん怒るじゃないですか」
「だから加藤ですってば!もー…書類、今日までですからね!」
気をつけてくださいよーといいながら去っていった黒髪ショートの事務員さんを見送る。
うっわ気が付かなかった…!額のマークがないから気が付かなかった…!!というかものすごい油断していた…!シズネさんに対して敬語だった…!!
「ようやく思い出したか?」
シズネさんを見送ったままドアを見つめていると、後ろから声がかかった。
バッと振り返ると、にやりと悪どい顔をした保険医…もとい綱手先生。
「お前も生まれ変わったクチだろう?」
「えーっと…」
この人も記憶持ちですか…!なんという面倒な…というか私そんなにわかりやすいかな…?
「お前、私の顔を見てから上の空だったじゃないか。シズネを見た時なんてすごい顔してたぞ?」
「えっほんとですか…?」
「ああ。まあ疑って見れば一発で分かるな。はい、治療終わり!」
「あ、ありがとうございました…… まじか……」
「よし。ま、私は詮索する気はないさ。生まれ変わった事を楽しもうじゃないか」
朗らかに笑う綱手様の左手の薬指には、銀の指輪がはめ込まれていて。
「綱手先生、は、結婚なされているんですか…?」
「ああ、イケメンだぞ。写真見るか?」
そういって白衣の内ポケットから出した写真には、幸せそうな綱手先生と、綱手先生より一回りくらい年下であろう元気そうな青年と、銀髪の優しそうな男性が並んでいた。
この、銀髪の男性が、綱手先生の旦那さんなんだろう。すごく幸せそうだった。
もう一人の青年を指さして訊ねる。
「この人は?」
「ああ、弟だ。」
「よく似てますね」
「だろう?自慢の弟なんだ」
満面の笑みで答えた綱手先生を見て、私も思わず笑った。