※マグノシュタットでの戦争終わった後拉致られました 「………」 やぁ、僕の名前はアラジン。旅人であり、この世に四人目のマギとして使命を受けたのだけど、ついこの間、というか、今日、依代となってしまった学長先生を救い出し、無事にティトスくんも帰ってきて、これからのアル・サーメンとの闘いに備えてまず休息を…と思ってたんだけど。 何故か僕は、煌帝国に居ます。 「さぁ、約束を果たしてもらおう」 いや、何故と問うまでもないんだ。理由は解ってる。だって僕がそういう約束をしてしまったから。 目の前に居る人は、この国の第一皇子で、三人のジンを従える複数迷宮攻略者。 目を常にギラギラとさせて、ことあるごとに僕の胸倉を掴んでくる、ちょっと(いや、結構)柄の悪いおじさん――――練紅炎その人だ。 「…えーっと……」 お互いベッドの上に正座して、真正面からそんなに目をギラギラされたら、正直僕は何もできない。 それくらいに、このおじさんはどこか怖い。 「あの…おじさん…」 「何だ?」 おじさんの目元に皺が刻まれる。うわぁ、すごいイライラしてるのが伝わってくるよ…。 「そんなに睨まないでおくれよ…そんなに睨まれると…その…っ」 「睨んでなどいない、これが普通だ」 ずい、と距離を詰められる。うわぁ、近くで見ると本当に顔立ち整ったかっこいい人なのにヒゲが不釣り合いだなぁ、なんて、あまりにすごい剣幕で迫られるものだから違うことを思ってしまう。とにかくその苛立ちが怖くて身体が萎縮していくのを感じ、抱きしめていた枕に更に力をこめた。 アリババくん…どうしよう…僕本当に、今更だけどとんでもないことをしてしまったよ…。 「さぁ、さっさと話せ、とっとと話せ。こっちはお前の条件をすべて呑んだんだ。今度はお前の番…違うか?」 違わない、違わないけど! ぐぅぅうぅ〜、と場違いな音におじさんが一瞬目を丸くさせる。 「もう、限界だよぉ…」 ぽふぅ、と僕の身体が、勝手に柔らかな毛布の上に倒れた。ああ、目が回ってきた…。だってずっと緊張状態で戦ってきたんだ、お腹だって空くに決まっているじゃないか。それなのに、 「腹が減っているのか?」 おじさんが、頭上から淡々とした様子で聞いてくる。こくん、と力無く頷いてみせると、そうか、とだけ短く言い残し、ベッドを降りて部屋の扉を開けると、そこには紅明お兄さんが立っていた。 「直ぐに何か食える物を用意してこい」 「そう言うと思って、はい」 ひく、と嗅覚が働く。匂いの元は紅明さんの手元。力の入らない身体を何とか起こして見てみると、そこには美味しそうな料理がいくつか乗せられたお盆を手にしていた。 「兄王様、もう少し肩の力を抜いて接しないと、知りたい真実も話してくれなくなりますよ?相手はマギとはいえまだ子供なんですから」 「…そうだな」 紅明さんが小声でおじさんに何か言うと、おじさんは素直にそれに対して頷いていた。紅明さんが僕に手を振り優しい笑みを浮かべて去っていくと、僕の目の前には美味しそうな料理が差し出された。 「腹が減ってるんだろう?…済まなかったな、それすら気付いてやれなくて」 おじさんが申し訳なさそうに、そう言ってくれた。今まで怖かった空気が、ちょっとだけ和らいだ気がして、僕も苦笑してご飯をいただくことにした。 「あー、とっっても美味しかったよ!!ごちそうさまでした、紅炎おじさん!!」 目の前に差し出されたご馳走を全部食べた。魔法をたくさん使ったし、時には体術も強いられたしで、戦ってる最中はあんまり気にならなかったけど、全部終わってホッとすると、人間の身体というのは不思議なもので、途端にお腹が空くものだ。 僕の分だけじゃ足りなくて、そうしたら見かねたのか紅炎おじさんが自分の分まで分けてくれた。もうほんとに美味しくて美味しくて、お腹いっぱい胸いっぱいだ。 「我が国の料理は美味かったか、マギよ?」 おじさんが、さっきよりもだいぶ柔らかい空気で、静かにそう問うてくる。 「うん!!どれもすっごくすっごく、おいしかったよ!!」 「…そうか」 満面の笑顔で僕がそう答えると、ぽん、と頭に手を置かれた。そしてそのまま、撫でられた。 「お、おじさん…?」 表情は無表情なんだけど、周りを飛ぶルフがとても穏やかで温かい。だから、機嫌は悪くない、みたいだ。 おじさんの手は大きくて、逞しくて、以前黄牙一族のおばあちゃんに撫でられた手つきとは、全然違っていて。 でもそれが、とっても優しくて。 「……っ、」 何だろう。頭を撫でられると、どうしてこんなに落ち着くのかな。 「お前を見てると、」 「…えっ…?」 おじさんが、小さな声で呟く。撫でる手つきは、相変わらず優しい。 「弟たちの、幼い頃を思い出すな」 「…っ!」 一瞬、ほんの一瞬だった。 おじさんが、柔らかに笑った。 悪どい笑みじゃなくて、きっと身内の人にしか見せないような顔。すぐにまた元に戻ってしまったけれど、今の笑みは…。 一人で狼狽えてると、おじさんの手が頭から離れて、更に腰かけていたベッドから立ち上がる。 「とにかく今日はゆっくり休め。時間はいくらでもあるからな、話は明日ゆっくりとしよう」 「あ、うん…わかったよ…」 「逃げようなどと考えるなよ、約束を果たすまでは絶対にここから出さんからな」 「う、うん…」 ではな、と最後に言ってからまたあの悪どい笑みを浮かべて、おじさんは去っていった。 「………」 取り残された僕は、とりあえず食べ終えた食器類を近くにあるテーブルへと置く。そういえば行儀悪くベッドの上でずっと食べてたな、おじさんは仮にも皇子できっとすごく礼儀作法にはうるさいだろうに、黙認してくれたのかな。 ベッドに戻って、大きな枕を抱きしめて、ぽすっ、とふかふかのベッドに横になる。 幾重にも重なる格子窓の隙間から月明かりが漏れていた。ああ、きれいなお月様だなぁ。 おばあちゃんと見た空も、今みたいにきれいな日があったっけなぁ。 まだ、撫でられた感触が残ってる。きっと悪い人ではない。ただ、少し不器用なだけで。 (あんな優しい笑みができるなら、普段から優しくみんなに笑いかけてたら良いのに…) 大人って、ずるいなぁ。 胸の奥が何だかもやもやするのを感じながら、僕の意識はやがて遠のいていった。 ダメな大人にちょっとだけときめいた瞬間 2014/04/16 |