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「はああぁぁ〜…」
部屋に入ってくるなり盛大な溜め息が聞こえた。珍しい、と思いながらベッドの上で横たえていた身体を起きあがらせると、そこには疲れた顔をしたザックスが居た。
顔が仄かに赤い。酒には強いザックスだが、珍しく酒が効いてるのだろうか。身体的疲労が溜まればいくら元ソルジャーで体力バカなザックスといえど、きついものがあるだろう。
「どうした?ずいぶん酷い顔だな」
「んー?ああー、もう飲めねぇ〜〜……」
ドサッ、とベッドに倒れ込みと、俺の腰に縋るように抱きついてきた。
「いやさ、俺の職場のおやっさんがさ、ウータイのうんまい酒が手に入ったから飲み比べするかってなってさ…。そしたらその酒、結構度が強くてさ…。甘いから余計に煽って…んで、結局互いに引き分けで終わって…うえっ」
「…頼むからここで吐くのはやめてくれよ」
「う〜〜…」
ちょっと意外だ。ザックスでもこんな風に酔いつぶれることがあるんだな。
ツンツンの黒髪を黙って撫でていると、ザックスがぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「…おやっさんってさ、少し俺の親父に似てるんだよな」
「父親に…?」
そう、とザックスが頷く。一度、以前の旅の途中で出会ったことがある。屈強そうな身体に、日焼けした小麦色の健康そうな肌。意思が強そうな目元は、ザックスにそっくりだった。
「だからか、おやっさんに頼まれたことはNOって言えねぇし、故郷に残してきた親父のこと思い出して、何か切なくなる時もあるんだよな…」
「親不孝な息子だな…」
そんな思いが欠片でも残ってるなら、俺なんかを選ばず、ゴンガガに帰れば良かったのに。
ザックスは俺の腰に抱きついていた体勢を変え、ごろりと寝転がって仰向けになる。
「そうだよー…俺は親不孝者だよー…でもさぁー仕様がねぇんだよー…」
だって俺にはもう、クラウドだけだから。
「…っ、」
全く、相変わらず歯が浮くような台詞をさらりと口にする。それで未だに照れてしまう、俺も俺だが。
「そういや、クラウドの親父さんってどんな人だったんだ?あんまり話さないよな」
「…ああ、それは、俺の家は、物心ついた頃には母子家庭だったからな」
「そっか…。じゃあ、親父さんと過ごした記憶って、ないとか?」
「そうだな…ないに等しい…な」
だから、そうやって父親のことを語れるザックスが羨ましい。俺の父親がどんな人なのか、母から聞いてはいたが、記憶がほとんどない所為か何だか他人ごとのように感じた。
「なぁクラウド、」
「ん?」
そっと、ザックスが俺の頬に触れてくる。しばらく頬を撫でたあと、唇に触れて。そのまま、紺の瞳が優しく見つめてきて、引き寄せられた。
ちゅ、とリップ音が響いて、途端に甘い空気に包まれる。髪を撫で梳く指に、肌がぞくりと粟立つ。
「いつかさ、お前の親父さんに、会いに行こうぜ」
「え…?」
「考えてみたら、まだ挨拶も何もしてなかったよな」
ニブルがかつてセフィロスに焼き払われた時、父の墓も確か燃え尽きた筈だ。だから実質、もうどこに父の骨が埋まっているのかもよく解らないのに。解らない、のに。
この男は、何だってこう――――
「…息子さんを俺にくださいとか、言うのか?」
「もちろん!!順番逆になっちまったけど、ちゃんと、挨拶しないとな」
思わず漏れる笑み。全く、本当にアンタって奴は。
目を伏せて少し浸っていると、ザックスに押し倒される。そうしてまた降ってくるキスの嵐。抱き締められた腕に力が込められる。
「クラウド〜愛してるぞぉー!!」
「…はいはい」
酔っぱらいめ、明日は頭痛に苛まれればいい。
なんて、思わず恥ずかしくて天の邪鬼なことを思ってしまうが。






父さん、もし今でも貴方が生きていたのなら。
ザックスを、ちゃんと紹介したかった。
俺も、ちゃんと地面に根を張って、必死に生きてるよ。





抱き締められた体勢のまま、寝息が聞こえてくる。黒髪を撫でながら、俺も苦笑しながらも大きな犬に頬にキスを送った。





拝啓、父上様
(とうさん、おれはいま、しあわせだよ)


2014/04/12


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