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ふと、眠っていた意識がゆるりと浮上する。
今夜中の何時かもわからずとりあえず寝返りをうとうとすると、何故かうてない。答えは簡単、俺を包み込んで抱きしめながら、ザックスが寝ているからだ。
3月とはいえ、未だ夜は寒いこの季節。暖かいフリースの毛布を二人で共有し、更にひと肌までこうして共有するというのは、いささか贅沢ではないだろうか。
ザックスの体温は、俺にとっては特別暖かい。だからか朝は少し寝汗をかくこともあるが、それでも寝入る時にザックスがひと肌をしきりに求めてくるのも、理解できない訳ではない。
どうして、人は肌のぬくもりを共有するとこんなにも落ち着くのだろう。
口を中途半端に開けて深く眠るザックスの顔を見てると、過去にソルジャー1st.として敵から恐れられた同一人物とはどうしても思い難かった。
何とも、
(間抜けな顔だ…)
そっと体勢を変え、ザックスの正面に向き直り、厚い胸板に顔を預ける。ザックスの匂いがして、先よりもずっと落ち着く。
ザックスとこうして一緒に暮らし始めた時は、何度も何度も夜中に目を覚まし、彼が生きているかどうか確認をせずにはいられなかった。目を覚ましては隣に眠る彼の呼吸を確認し、安堵する。
自己満足だったが、そうせずにはいられなかった。
また勝手に置いて行かれるんじゃないかと、そうずっと思い込んでいた。
そんな馬鹿なこと思わなくとも、彼はもう一生俺の傍に居てくれると誓っていたのに。
当たり前の日常に慣れることが、いつからか怖くなって。
勝手に思い込んで、塞ぎ込んでいた。
昔から、彼は俺の手の届かない所にいた人だったから。
それさえも思い込みだと、彼は笑うかもしれないけれど。
強い羨望と憧れの象徴だった彼が、今こうして、間抜けな顔を晒し、無防備な姿で寝ているだなんて、あの当時の俺には想像もつかなかった。
けれども、その度に思うのだ。これは紛れもない現実で、彼は俺の隣に居てくれる、と。
そっと息を吐く。そして、頭を彼に擦りつけ、そっと腕を背中に回した。
嗚呼、暖かい。
一人じゃない。二人、なんだ。
この体温と心臓の音は、確かにザックスのもので、生きている証。
「…落ち着くな」
「っ、起きて…、」
「ん、今意識が少し、な…ぁふ…」
欠伸を噛みしめて、ザックスが呟く。結局、こうして起こしてしまう。ザックスもきっと軍人の頃の癖が抜けないのだろう。お互い悲しい性だ。
「あったかいな…クラウドは」
「ザックスの方が、暖かいよ…」
また、抱きしめる腕に力が込められる。共有する体温は、いつだって幸せな気持ちにしてくれる。
「クラウド…」
「ん…?」
「おやす…み…」
「ああ…」
僅かに上体を起こし、サイドテーブルに置いてある時計を見れば、朝方4時過ぎ。
まだ起きるには早い。ザックスの腕の中に戻り彼の腰あたりに手を置くと、彼も彼で俺の背中に回した手が(無意識なのか)背中を撫でてくれた。
目を閉じると、早くも覚醒した意識は再度眠りの世界へと堕ちていく。






そして目が覚めれば、またせわしなく毎日が過ぎていくのだろう。
まだ咲かない春の花へと夢と希望を乗せながら、ザックスと共に、また明日を歩いて行こう。








3がつ9か
(このさきも、ずっととなりで、ほほえんでいて)





2014/03/09


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