※if、ビビが異世界に来たら…












「どの世界でも、死ぬっていうことがあるんだね」
「は?」
まだ子供であろう少年(顔がハッキリしないから判別付きにくいがきっと少年だと思う)が、イミテーションを倒した後そんなことを呟いた。
魔法の杖をしまい、トレードマークである大きなトンガリ帽子を目深にかぶり直すと、足早に歩き始める。俺はそれを、慌てることなく追いかけた。
「彼らは、何の為に造られたんだろう…」
「彼らって、イミテーションのことか?」
「うん」
「そりゃ、俺たちの邪魔をする為だろ」
「うん、きっとそうだね…」
覇気がこもってない返事、でも、とビビは静かに続ける。
「悲しいね…どこに行っても、こんな風に闘うしか道がないなんて…悲しいよ…苦しいよ…」
――――彼らに意思がないとはいえ、ただただ壊さなきゃいけないなんて、ボクはそんなこと、できるならしたくない。
ビビは、優しい。優しすぎる。きっとこの世界に来るべきじゃなかった。でも女神様の気まぐれで、喚ばれてしまった。
コスモス、あんたは残酷だな。玉ねぎだってそうだが、こんな少年を終わりのない闘いに喚ぶなんて、惨いことをする。
俺は俯くビビの頭を帽子の上から撫で、そして抱き上げる。
「うわっ」
「暴れんなよ。おとなしくしてるっス」
「わわっ、ボク高いところ苦手っ…」
無理やり肩に担いで肩車してやる。ビビの身体は、信じられないくらい軽い。ほんとに中身詰まってるんだろうかってくらいだ。
最初は怖がっていたが、やがて慣れてきたのか、恍惚としたため息が彼の口から漏れた。
「ビビ、」
「……」
「嫌なことは、思いっきり腹の底から叫ぶっス」
「何か、」
「ん?」
「誰かさんと同じこと言うんだね」
「そうなのか?」
「ボク、みんなのこと大好きだよ。こんなボクを仲間として迎え入れてくれて…」
「俺も、ビビのことが大好きっスよ」
「うん、ありがとう」
こんな、なんて、自分を蔑まないでほしい。生きてる限り、誰だって欠点はあるんだから。
「できるなら、ボクティーダみたいになりたいなぁ」
「お、嬉しいこと言ってくれるっスね」
「ボク人よりとろいから、ティーダみたいにスポーツ選手とかなれたら、もっと機敏に動けるようになるかなぁ…?」
「なるなる、ビビは努力家だから、俺なんかより良い選手になれるって」
「そうかなぁ…どうだろうなぁ…」
夢を馳せる。それくらい、この世界で想ったって自由なはずだ。ビビはまだ子供で、いくらでも夢を抱き、それに向かって行くことができる。
だから、諦めないで、向かってほしい。イミテーションに殺されることなく、この世界を一緒に救えるように、俺はいつまでも共に在りたいと願った。




彼は後に自身の記憶を思い出した。
表情は判らなかったが、でも明らかに暗い顔で、思い出した後は日々を過ごし、イミテーションと戦っていた。
そして消える間際に、俺に向かってこう言った。
――――ボクは造られた存在だけど、確かに此処に居たよね。
嗚呼、もちろんだとも、確かに此処に居たよ。
消えゆく手を一生懸命握り返しながら、確かに感じる彼の熱と重さを、俺は覚えている。
そうして最後に、やっぱり判りにくかったけど、ビビは笑った。





造られた命



2013/01/04


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