※現代 「あ〜…」 腹減った。 口に出すと減っている腹がますます減るような気がして心の中で呟いた。季節はもう春うらら、外に居る野良猫は日に日に発情の声を高らかにし、相手を求めて子作りに励んでいるというのに、俺にはそんな気にもなれない。 今は性欲より食欲だ。 ずるずると床を這いつくばりながら床上に放置された鞄の中を漁り始める。 取り出したのは使って長い愛用の財布。札を入れるスペースを見ても小銭入れを見ても、お金はない。や、一応あるにはある。 「いち、にい、さん…」 何と残金、全財産30円。30円で、一体何ができようか。 恥ずかしながら、もうここ一週間、ほぼ飲まず食わずだ。大学に行けば、友人に訳を話せば少しは恵んでもらえる。だが学校に行く為の交通費もないとなると、そうもいかない。 トイレだって、家の水道代がもったいないので近くのコンビニに行ってわざわざ用を足してる。そしてどうしても食欲の我慢ができなくなったら、更に少し歩いた所にある公園の飲み水をがぶ飲みするのだ。だがそんなことをしても、胃の中は満たされない。水分をとっていれば生き長らえるというがそれでも俺は固形物を食べたい。 再度鞄の中を漁る。何かないだろうかと、必死だ。だが残念ながら、何もなかった。微かな塵が出てきただけ。家の中にある調味料の類なんていうのも、基本料理なんてしないから空に近い。冷蔵庫にある物も、全部食べ尽くした。 ぐきゅるるるぅ〜。 もう何度聞いただろうか、このハーモニーを。 ばたりと大の字に倒れて、窓から見える青空が眩しく感じた。そこから見える木の枝に、ぷくぷくと太った雀が何羽か。ぴーちくぱーちく井戸端会議を開き、元気そうにはしゃいでいた。 それを窓越しに凝視する俺。 自然と口からよだれが垂れてきた所で、ピンポーンとインターホンが鳴った。 「生きてるか?」 「スコールゥゥ〜…」 ぐきゅるるるぅ〜。 「…元気そうだな、帰る」 「ちょ、待てって!待ってくださいスコールさんっ!!お願いっ!!」 入って来たのは、同じ学科の後輩のスコール。両手に食材の詰まった買い物袋を手にして来てくれたのだ。実はこういう事態になるのは、今回だけではなかったりする。 「携帯が繋がらなくなったし学校にも来てる気配がなかったから一応様子を見にきてやった」 と、いつからか俺がこうして生活費がなくなりピンチになるとこうして来てくれるようになったのだ。スコールだってバイトしててそこまで余裕がある訳じゃないのに、何でいつもそんなに余裕があるんだろう。 「いつから食べてないんだ?」 「約一週間ほど前から…」 「ガスは?」 「止まってマス…」 「電気は…、ついてるな。水道は?」 「かろうじて…」 「…はぁ」 大きな溜め息ありがとうございます、そう言いながらも何だかんだで世話してくださるあなたが大好きです。 とりあえず袋から出されたのは豆腐、ネギ、インスタント類のカップめんに、お惣菜。 それを手際よく切って刻んで皿に盛り付け、電気ポットでお湯を沸かすこと30秒。 「いきなり空っぽの胃腸に刺激物を入れると痛めるだろうから先に豆腐から食べろ」 嗚呼、その優しさ!!スコールが神様に見える。ってか、俺には神様のようなものかも。 ありがたーく頂戴することにして手を合わせ、イタダキマス。 「…豆腐、うめぇー…」 その間にカップめんの準備をしてくれてるらしく、お湯を入れた状態で持ってきてくれた。 「あのさスコール」 「…何だ」 「今回ばかりはちょっとヤバくてさ、雀って食えんのかなって、ちょっと本気で考えた」 「そう思うなら食って来い。ただし農薬にまみれた稲やどんな種類の散布剤をまかれたのか判らない悪影響だらけの草を食べそれを吸収している雑菌ばい菌だらけの雀を食べたらたちまち抵抗力免疫力が下がったお前の身体を蝕みまだ若いのに重い病気を引き起こし死に至るのだろうな、ご愁傷様」 「…ごめんなさいやっぱりいいです」 「バカなことを言っていないで早く食べろ」 「へーい」 カップめんの蓋を外しスープを飲む。あー、うまい。たったこれだけで生きてて良かったって思う俺って、何だか情緒深い人間だよな。 「で、」 「ん?」 「今度はどれくらいで仕事を辞めたんだ?」 「んー、二週間くらい」 「………」 「だって、そこの店長マジで厳しいんだって!自分がうまくないとすぐこっちにいちゃもんつけてくるしさ」 「…いい加減自分自身の生活を見直せ。そして今後もう俺に頼るな」 すくりと立ち上がり、去ろうとするスコールの腕をぱしりと掴む。 「じゃあさ、一緒に住まないか?」 「………」 返ってきたのは、きっつい視線と重い右ストレート。 お〜、左頬がいてぇいてぇ。 でもさスコール、確かに自然と頼ってしまっているけど、俺最初からスコールに助けてって言ったこと一回もないんだけど、それはいつ言えばいいのかなぁ? ハラヘッタ 2013/05/02 |