※発売前勝手に妄想


「あんた達の仲間に…」
「…?」
「いや、何でもない…」
そう言い残し、敵な目もくれずにさっさとその場を後にした。もう何度目の戦いになるのかよく覚えてはいないが、幾度となく繰り返された闘争にことあるごとに俺は身を投じてきた。今回喚ばれた戦士達もまた、皆それぞれの目的を果たす為に剣を奮っている。
もう一組のコスモスの戦士達と俺達カオス側の陣営が戦っているであろう場所に向かうと、そこはもう決着が既に着いていたようだった。ティーダの父親であるジェクトという男と、もう一人。
深い青紫の色を纏い常に目元を隠している長身の男。
「ジェクト、」
「あん?」
「先に進んでいてくれ、どうやらまだ残っている奴が居るようだ」
「なんなら、一緒の方が早く片付くだろ?」
「いや、俺一人で十分だ。ジェクトの手を患わせるまでもない」
「へっ、言うねぇ。んじゃあお言葉に甘えて先に行ってるぜ」
ジェクトが先に進み気配がなくなったのと同時に、男は槍をしまいこむ。そうして低い朗々とした声で、そこに居るのだろう?と俺に向かって声をかけた。
「覗きか?」
「…別に」
「そちらは片付いたのか?」
「だからこちらに来たんだ」
「なるほどな。…どうだった?」
「…互いに、まだ本気じゃない。だが、楽しめそうな奴も増えていたな」
「ほう?」
言いながら、男は嬉しそうに腕を組む。その身に纏う鎧の上からも解る逞しい筋肉に覆われた腕は、槍を奮うに相応しく、自分の腕がいっそ貧相に思えて。目元は見えないがゆえに唇だけ吊り上げた姿は、妙にミステリアスな雰囲気だった。笑った時だけ、少しだけ柔らかくなる空気。普段凜としている彼と、柔和な空気と、はたしてどちらの彼が本物なのか。
「クラウド?」
「っ」
気づけば、男は目の前に居た。やはり目元は見えなくて、サイドに流している緩やかな薄紫の混じった銀の髪がさらりと揺れる。
「少し疲れているようだな、早く陣営に戻れ」
「…余計な心配はいらない。そういうアンタこそこちらに早く戻ってきたらどうだ?」
彼の好意(これが本当に好意と呼べるかは置いておいて)に皮肉で返してやれば、今度は自嘲気味に男は笑った。
「…まだ裏切るには早いのさ」
ではまた、と言い残し、男は背中を向け去って行く。いつか言っていた。罪は俺が引き受けよう、と。裏切るだけが自分の人生なのだと。唇しか見えなくてどんな目をしていたのかは解らない。だが声が微かに震えていたのは解った。
あの言葉が、耳から離れなかった。言葉が離れない所為で、自分でも無意識の内にこうしてわざわざ覗きに来るほど、あの男の存在は俺の中で膨れ上がっていく。
かつてこの世界で旅をしていた仲間に(今は敵同士だが)少し似ているからか。
それとも、俺自身に似ている部分があって共感しているのか。
よく解らないが、いつかあの男に聞ける日がきたら聞いてみようと思う。





罪って、赦されるのかどうかを。





裏切りの蜜



2011/02/28


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