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ザックスという男は、一見粗野に見えて実は気配りが細かく、綺麗だ。
「ほいお待ちどうさん。ジントニックにジンライムと、揚げたての唐揚げだぜ」
器用に酒を入れたグラス二つと唐揚げを盛りつけた皿を運び丁寧に客のテーブルへと置いていく。こちらへと戻って来る途中で空いた皿を拾い、客にまめに話し掛けるのも忘れない。ティファがまたメニューを作り上げたのと同時に、新たにきた注文を彼女へと伝えてまた運んでいく。慣れているのもあるかもしれないが、その仕種はほんとうに様になっていて、思わず見惚れてしまう。
ぐい、とティファが作ってくれたロックを煽りながら、俺は頬杖をついてザックスを飽きることなくずっと見ていた。
常連であり日中のザックスの職場の上司にもあたるおやっさんに話し掛ける時は豪快に笑ってみせて、女性に話し掛けられた時はどこかしっとりとした雰囲気で応えている。その目つきや手つきは優しく見えるが、ちゃんと一線を引いていた。
隙がない。でも自然と彼の周りには人が集まる。それは彼自身が持っている魅力もあるだろうし、どこかカリスマ性のようなものを持っているからかもしれない。
昔も今も、そんな天性の才を兼ね備えた彼が羨ましいと思う。
昔だったら、それを見て一人ひがんでいただろう。だが今は、それを冷静に見れるようになっただけ少し大人になったと思いたい。
おやっさんに捕まったのか、なかなかカウンターへと戻ってこない。だがここには急く客も居ないから、ティファもそれでいちいち咎めたりもしない。ザックスは腕を組み、おやっさんの話に真剣に耳を傾け、そして笑っていた。
彼の目元に刻まれた笑い皺が、少し歳を取ったなと感じさせる。
そしてやっぱりどこか、品があるなと思った。
藍の色が優しい。俺に向ける色とは少し違うけれど、でも数少ない心置きなく話せる相手だという証拠の色をしている。
人好きなザックスだからこそ、ああして人から愛される。
やはりそんな彼が羨ましくも思うし、少し遠い存在のようにも感じる。俺にはきっと真似できない。一気に残りを煽って、上に戻ろうとした時。
ザックスの藍色とかち合った。
にんまりと笑う。そうして俺を捕えて、藍色が徐々に変化していく。


『部屋で待ってろ』


そう言われた気がして、俺は顔が火照るのを感じながら急いで部屋に閉じこもった。



* * * *



ずっと俺を目で追ってたろ?
戻ってくるなり彼はそう言いながら俺を押し倒した。されるがまま、服を脱がされる。俺は彼が施してくる愛撫に耐えながら、やはり彼を目で追う。
彼もまた服を脱ぎ、鍛えられた肢体を晒す。傷だらけの、銃痕が残る身体。胸が痛い。でも、完璧と云えるほどの造形をしていて、いつ見ても胸が高鳴り、恍惚の息を漏らしそうになるのを感じてしまうくらいザックスは綺麗だった。
獣の目。藍色が徐々に正体をあらわにしていく。逸らせない。囚われて、魅入ってしまう。
「どうした?俺に見惚れた?」
からかうような問いに俺は応えられず、でも微かな抵抗として爪で腕を引っ掻いてやる。首筋を甘く噛まれて、体温が重なり息が混ざる。口づけを交わして至近距離に見える整った精悍な顔に、また息がほう、と漏れた。
くすりと笑む彼の表情に、空気に、安堵する自分。
頬を包んで、頭をそっと撫でて、今度は自分から軽く口づけた。すると彼がまた甘く食んできて、それに笑い合う。
綺麗な俺だけの獣。見ていて飽きることのない、俺だけの宝石。
「アンタは、見てて飽きない」
「俺も、クラウドのことずっと見てたいくらいだ」
奪われる。呼吸も視線も体温すらも。囚われて、離れられなくなる。目で追えば追うほど、深みにはまってく。
そんなアンタは、正に魔性。
けど「それはお前の方だろ」とアンタは云う。
アンタは解ってない。アンタがどれだけ価値の高い宝石で人間なのか。
まぁ尤も、他の奴に目で追われるのも癪だから俺だけが追っていれば、それで良いんだが。



目で追う



2011/02/17


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