※現代


「うー…」
自業自得かなぁ、と自分でも思う。そりゃまぁ、体力には自信ある方だし、実際スコールより俺の方が体力あるし。唸りながらまた寝返りをうつと、やっぱり身体は熱さを帯びたまま、俺の心をじわじわと蝕んでいく。息が浅く、呼吸がいつもより早い。風邪を引いたのは、本当に久しぶりのことで、体力に自信があったからこそ正直今のこの現状にショックを隠せない訳で。
「ティーダ、」
控え目なノックと低い声音に、俺は意識をそちらへとやる。同居人のスコールだ。替えの水枕とスポーツドリンクを手に、俺の傍へと近づいて来る。ぴたりと額に宛てがわれたスコールの手は、ひんやりしてて心地が良い。起こされて、上半身を新しいシャツへと無理矢理着替えさせられて(思っていたより汗をかいてたらしい)、枕を替えてもらって、もう一度寝しつけられた。手際のよさに感心してしまう。けど熱の所為でぼーっとしてしまうため、俺は基本されるがまま。
「調子はどうだ?」
「んー…」
いまいち、と小さく答えると、スコールは俺の隣に腰掛けてそっと頭を撫でてくれる。その手つきはひどく優しい。ちらりとスコールを見れば、物静かな青灰と目がかちあった。その視線の奥に僅かに見え隠れする光と熱に、一瞬にして自分の頬が熱くなるのを感じて、思わず目を逸らしてしまう。
「何だか、調子が狂うな…」
呟いたスコールの小声を耳に留めながら、俺はスコールの方へと寝返りを打つ。今度は前髪を避けながら、スコールの指が俺の頬のラインをそっとなぞった。その指の冷たさに、肌がぞくりと粟立つ。
「何が…?」
ワンテンポ遅れて問い返せば、とぼけたように、スコールは微笑む。
「いや…何でも」
「?何なんスか…」
言いかけて言わないのは卑怯だ、と内心一人ごちて、スコールの指に擦り寄ってみる。あまりに心地が良い手つきなものだから、ずっとしてほしい、なんて甘えたくなる。
「体力に自信があっても雨に濡れたまま水気を拭きもせずに寝るからこうなるんだ。いい加減学習しろ」
溜め息を吐きながら言われた一言は痛くて、でもそれが冒頭に戻る『自業自得な内容』なものだからぐうの音も出なくて。一瞬スコールを上目遣いで見た後に、ごめん、と小さく謝れば、言葉はないが撫でてきた手つきで


『別にそんなに怒っていない』


と言われたような気がして。言葉少ないスコールの想いが、ちょっとはこうして解るようになったくらい。俺はスコールの中に深く踏み込むことができて、スコールも受け止めてくれてるのかな。そう思ったら、途端に胸が暖かくなって、頬が緩みそうになった。
「ティーダ…?」
気づけば意識がずいぶん遠い所へ行ってしまったようで、スコールの声はかろうじて聞こえたけれど身体は指先一つ動かすことができなかった。スコール、俺、スコールの中に俺っていう存在がちゃんと居るんだって思うと、とてつもなく幸せに感じるんだ。嬉しくなるんだ。泣きたくなるくらい、何でかわかんないけどさ、すっげぇ幸せって思う。
だからさ、こうして弱ってる時に傍に居てもらえることってさ、ささいなことだけど、本当はとっても贅沢な幸せなんだなって、俺は思うよ。
ありがとなスコール。だから、ずっと俺の頭撫でて、好きなその声で、名前呼んでくれよな。



そばにいて



(嗚呼、ほんと、幸せ過ぎてとけちゃいそうだ)




2011/02/09


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