未知なる英断‐02 

一本道をひたすらまっすぐ歩いていく。天気は良くて、人通りが少ない。育て屋を出てすぐに保育園を見かけたけれど、この周辺は人間もポケモンも預けられるようになっているのか。

しばらく誰ともすれ違わずに進んでいたけれど、やがて見覚えのある人影がぽつりと現れた。手を振れば向こうも気づいて小さく手を挙げてくれる。あれはチェレンだ。とっくの昔に先に進んでいたと思っていたけれど、まだこの辺にいたんだ。

「チェレン、久しぶり」
「ああ、リサ。きみもまだこの辺にいたんだね」
「うん。ちょっと色々見てまわってた」

と言ってもわたしが見てきたのは育て屋の内部だけれど。チェレンはこの周辺の草むらや洞窟を見てまわり、ポケモンを鍛えたり図鑑を埋めるための調査をしていたりしたのだという。この先に洞窟があるのか。あとで行ってみるのもいいかもしれない。そう思ってチェレンに洞窟までの道を尋ねようとしたとき、後ろからどたどたとうるさい足音がした。見たことのある姿に身構える。あれは、プラズマ団の服装。

「どけどけー!」

男2人が荒々しい言葉を吐いて駆けていった。全くはた迷惑だと思いながらも、一歩下がる。道を譲らないということは面倒事を自ら引き寄せるも同然だ。関わらないに限る。
何だったんだろうと思う間もなく、今度は聞き慣れた声がした。

「おーい!」
「ベル!」

息を切らして一本道を走ってきたのは、ベルと小さな女の子。どこかで見たことのある鞄を肩から下げている。どこだったっけ……ああ、さっき通り過ぎた保育園の指定鞄だ。どうしてベルと一緒にいるのだろう。あっちから来たというのなら、保育園はとっくに通り過ぎてしまっているのに。
2人のただならぬ様子にどうしたのと言うも、ベルは「誰か通ってない?」ととんちんかんな返答をするばかり。プラズマ団なら通ったけど……。質問をしているのはこっちだとチェレンが再三にわたり尋ねれば、ベルが叫んだ。

「ねえ聞いてよ!この子のポケモン、プラズマ団がとっちゃったの!」
「それを早く言いなよ!まあ今はそれを言っても仕方ないか。行くよ、リサ!」

走りつかれて道端にしゃがみ込んでいるベルたちを残して、わたしはチェレンの後を追う。背中越しに女の子の泣きそうな声と、ベルのはげましが聞こえてきて、ぐっと唇をかみしめた。
関わらないのが一番だ、だなんて思うんじゃなかった。あそこでわたしたちが足止めしていればよかったのだ。今更後悔しても遅い。黙々と足を動かして、やがて岩肌にぽっかりと開いた穴が目に入る。あれはもしかしなくても、チェレンの言っていた洞窟だろうか。白っぽい服の男2人が駆け込んでいくのを視界にとらえて、ぐんとチェレンがスピードを上げた。ついていけずに引き離されながらも、何とか洞窟までたどり着く。

ちらりと見えた看板には“地下水脈の穴”と書かれていた。水脈ということは湿り気のある洞穴なのだろうか。琳太と出会った場所が一瞬脳裏に浮かんだが、実際に足を踏み入れてみると、思ったよりも明るかった。

「さあ、あの子から奪ったポケモンを返してもらおうか」
「何だお前らは!まさか追ってきたのか!」
「あんな子どもにポケモンは使いこなせない!かわいそうだから奪ってやったのだ!」
「やれやれ、話が通じないメンドーな連中だ……」

ボールを持った男が一歩、こちらへと踏み込んできた。バトルで解決させようということか。ダブルバトルになるかと思われたが、もう一人はポケモンを持っていないようで大人しく後ろに下がっている。敵は少ない方がいい。チェレンに目で促されたので、わたしは琳太のボールを握りしめた。

「お願い、琳太!」
『ん!』

プラズマ団の男が繰り出したのはミネズミ。先手必勝とばかりに、琳太に頭突きの指示を出す。

「ミネズミ、みきりだ!」

ミネズミの目が鋭く光ったかと思うと、琳太の攻撃をひらりとかわした。ミネズミを見失ったかのような錯覚に陥った琳太が、戸惑って動きを停止する。モノズは視力がそこまでよくないし、さほど視界も広くない。だから、バトル中はわたしが琳太の目にならなければいけない。

「琳太、うしろ!」
「ミネズミ、かみつけ!」
「たたきつける!」

振り向いた反動を利用して、琳太がミネズミに強烈な一撃を食らわせた。かみつこうと飛びかかってきたミネズミは、自らのスピードによってより大きなダメージを負うことになる。ぱったりと倒れてしまったのを見て、プラズマ団の男はモンスターボールを取り出した。

「何故、正しき我々が負けるというのだ……!」

もう手持ちのポケモンがいないらしく、男たちは悔しそうに歯噛みしている。チェレンとツタージャが迫れば、男は大人しく盗ったポケモンの入ったボールを彼に渡した。一件落着かと思われたその時、もう片方の男が小さく笑った。

「琳太!?」

意味深な笑みを不気味に思っていると、琳太がいきなり後ろから突き飛ばされた。不意討ちに目を見開く。後ろを見れば、琳太に体当たりをかましたと思われるミネズミと、こちらに向かって突進してきているもう一体のミネズミがいた。再び駆け出したミネズミの向こう側には、さっきまでいなかったはずの2人のプラズマ団。いつの間にかはさみうちされていたのだ。

『リサ!』

背後の琳太がわたしの名前を叫ぶ。目前に迫った牙からは逃れようがなくて、足が全く動いてくれなかった。ノミのような鋭い歯を視界いっぱいに映したのち、ぎゅっと目を閉じ腕で顔をかばう。




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