心の在処‐08
さっきみたいに単調なことはしまいと、ミジュマルに声を掛ける。先制はわたしだった。
「ミジュマル、気合いだめ!」
「ツタージャ、睨み付けてから体当たりだ!」
『ひっ』
睨み付けられて怯えたミジュマル。あれ、睨み付けるってそういう効果の技だったっけ、とは思うけれど、そんな余計なことを考えている場合じゃない。
ツタージャならではの素早さを活かして、新緑の弾丸はあっという間にミジュマルの目の前に。
「迎え撃って!水鉄砲!」
『あ、ちょ…ふおぁっ!?』
「ミジュマル!!」
焦ったミジュマルは、気合いだめからうまく攻撃態勢に移れなかったようで面食らってしまい、水鉄砲の準備が間に合わなかった。お腹にツタージャの体当たりがもろに入る。
『うぐふっ!』
『う、わ!』
準備が中途半端だった水鉄砲の水がその衝撃で飛び出し、カウンターさながらにツタージャの顔面へと至近距離でヒットした。水鉄砲として意図的に撃ったわけではないし、相性もよくなかったために、威力などたかが知れたものだったけれど、気合いだめが幸いしたのか、ツタージャが後退りするほどの威力にはなっていたらしい。ツタージャが体勢を立て直す間に、よろよろとミジュマルが立ち上がれるだけの時間が稼げた。
「怯むなツタージャ、もう一度睨み付けろ!」
『まぐれで当たったくらい、何でもないね!僕が怖いんだろ?そら!』
その時、ピンと閃くものがあった。うまく、いくかなぁ…。
「ミジュマル、ツタージャを見ちゃだめ!目を閉じてもう一度気合いだめ!」
怖いのなら、見なければいい。見たくないのはミジュマルの本心だったらしく、素直に彼はそれに従い、『落ち着け…落ち着け…』と念仏のように唱えながら意識を集中させた。
「ツタージャ、そのまま突っ込め!体当たりだ!」
「ミジュマル、目を開けて!体当たり!」
気合いだめの間にさえひるまなければ、うまく攻撃できると踏んでのことだったが、目を開けたミジュマルはびくっと肩を跳ねさせた。そのまま動く気配がない。猛然と迫り来るツタージャを目の当たりにして、硬直してしまったらしい。さっきの集中力はどこへやら。
避けてと言っても果たして間に合うかどうか。どうすればいいのか焦りばかりが募っていく間に、ツタージャからの渾身の一撃を食らったミジュマルは、倒れてしまった。
「ミジュマルっ!」
しゃがみこんで、キズぐすりを吹き掛けると、しみるだろうにミジュマルは黙ったまま大人しく治療をうけていた。俯いていて表情がよく見えない。
「バトル、ありがとうリサ」
「え、と、こちらこそ!」
『ま、これが当然の結果かなー。僕はマスターとこれからもっと強くなるんだし。…ですよね、マスター!』
なんとなくツタージャの言いたいことは伝わったのか、チェレンはうなずいた。軽く治療を受けて、ツタージャは赤い光となってボールへと吸い込まれていく。
「ミジュマル、大丈夫?」
『うん…』
歯切れの悪い返事を返すだけにとどまっているミジュマルにかける言葉が見つからなかった。わたしの指示がうまくいかなかったのだから、わたしに責任があると思う。でも、わたしがここで謝ったとして、ミジュマルはどう受け取るんだろう。気遣われていると思いはしないか。余計に臆病さを重荷に感じてしまわないか。
「…ミジュマル、」
しゃがみこんだ体勢のまま、うつむいている彼に声をかけると、ドキリとするほどに透き通った、真っ直ぐな視線が返ってきた。
「これから、一緒に頑張ってくれる…?」
躊躇いがちにうなずいたミジュマル。肯定の返事をもらえたことに安堵しつつも、胸のつかえはとれない。頑張るっていっても一体何をどうすればいいのやら、皆目見当はついていないのだから。
バトルお疲れさまの意を込めて、純白の頭を一度撫でてから、ボールに戻ってもらった。
「リサ、話は終わった?」
「え、うん!ひとまずは、終わったよ。ごめんね待たせちゃって」
ミジュマルばかり見ていたせいで、ベルとチェレンをまたもや待たせてしまっていた。どうしようもなく申し訳ない。擬人化していた琳太もむくれてわたしのショルダーバッグのチャックを指でいじっている。ごめんねと言うと、まあいっかという風に琳太は腰にしがみついてきた。やだもうこの子かわいい。
「さて、一番道路でアララギ博士が待ってる」
それは初耳だ。わたしがそんな顔をしたことに気づいたチェレン。ベルもわたしと同じように、きょとん、としている。
「わたし、何にも聞いてないよ…?」
「あたしもー」
「リサにはアララギ博士が言い忘れたんだろうね。でも、ベル。きみはぼくと一緒に研究所に行って、アララギ博士から話を聞いたはずだけど?」
博士がじきじきに、わたしたち初心者ポケモントレーナーに、ポケモンをゲットする方法を教えてくれるらしい。ベルはチェレンの説明で、やっと思い出したらしく、その様子に彼は溜め息を漏らしていた。
わたしたちがバトルをしている間に、別の道からもう一番道路へ行ってしまったに違いない、とチェレン。わたしもそうだろうと思う。これ以上は道草をくっている場合ではない。
さて、と三人で一番道路へ向かおうとした時、ベルがはた、と立ち止まった。
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