「え、でもそれ岩ちゃん悪くないじゃん?」
「まぁ。けど一番信用していた人の嘘はきつくて…ここにはもういられないって思ったんです。」
上司のミスを被ったらしい岩ちゃん。信用していた上司が岩ちゃんに罪をなすりつけることを別の上司に話していたらしく、偶然それを聞いてしまった。信じていた人の裏切りの言葉は辛い。たった一言、それがどれ程命取りになるのか、私には分かる。たった一度の失言で、人間なんて簡単に信用を失う。そして一度失った信用は、もう二度と取り戻せないということも。
「辛かったね。頑張ったね。」
泣きたいのは岩ちゃんの方なのに、何故か私は涙が止まらなくて。隆二と出逢った頃を深く思い出した。やっぱり隆二以外、好きになんてなれない。哲也さんの馬鹿。
「雪乃さん、優しいですね。泣いてくれるような人、俺の周りには存在しない。」
口元を抑えて顔を紅くしている岩ちゃんは寂しそうで、気づいたら岩ちゃんを抱きしめていた。
「私の前では強がらなくてもいいよ。」
「雪乃、さん…。」
守ってくれない男は好きじゃない。でもこの子は、なんだか守ってあげたい…そんな気にさせられる。やっぱり馬鹿は私かも、哲也さん。
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